WORLD WAR Z

『WORLD WAR Z』（ワールド・ウォー・Z）は、マックス・ブルックスが2006年に発表した終末ホラー小説です。この作品は、ゾンビとの戦いを生き抜いた人々の証言をまとめたオーラル・ヒストリーという形式で描かれています。物語は、軍人、政治家、宇宙飛行士、主婦など、様々な立場の人物へのインタビューを通じて展開され、ゾンビの発生から人類の反撃まで、世界中で繰り広げられた戦いの全貌を多角的に捉えています。

ゾンビ発生の背景と特徴

物語は、中国を発生源とする未知のウイルスによって人間がゾンビ化するという設定から始まります。ゾンビは、死んだ人間の体がウイルスに侵され、凶暴化したものです。彼らは知性を失い、生きた人間を襲いますが、走ることはできません。脳を破壊されない限り活動を続け、冬に凍り付いても春には再び動き出すなど、驚異的な生命力を持っています。感染は噛みつきによって広がり、潜伏期間があるため、難民に紛れて世界中に拡散しました。また、ゾンビの体液はタールのように粘性が高く、爆発や砲撃では簡単には破壊できません。頭部を破壊する以外に有効な対抗手段がないため、人類は非常に苦戦を強いられます。

世界各地での戦いと混乱

物語の舞台は、中国、アメリカ、ロシア、日本、ドイツなど世界中に及びます。ゾンビとの戦いだけでなく、人間同士の争いも描かれています。例えば、防衛に適さないヨルダン川西岸を放棄したイスラエルでは、宗教右派と政府の間で内戦が勃発し、パキスタンとイランの間では難民問題から核戦争に発展します。それぞれの国や地域で異なる状況の中、人々はどのように生き残り、戦ったのかが詳細に語られます。

登場人物たちの群像劇

この作品には、数多くの登場人物が登場します。アメリカでは、資源戦略省長官として経済を立て直そうとするアーサー・シンクレア・ジュニア、ゾンビとの戦いを指揮するトラヴィス・ダンブロジア将軍、そして数々の戦いを生き抜いたトッド・ワイオ二上等兵などが登場します。中国では、感染の初期段階で奇病を発見した医師のクワン・ジンシユー、潜水艦で逃亡を図るジヨ・ジカイ艦長が登場します。南アフリカでは、非人道的ながらも効果的な対ゾンビ戦略「レデカー・プラン」を立案したポール・レデカー、そしてスラム街に暮らす少年ジェイコブ・ニャティの視点から物語が語られます。日本では、オタクの近藤辰巳や被爆者の朝永維持朗といった人物が登場し、それぞれの状況でゾンビに立ち向かう姿が描かれています。

英雄ではない、普通の人々の戦い

この作品は、特定の英雄が活躍する物語ではありません。世界中の人々が数年以上にわたって戦い、徐々に絶望的な状況を覆していく様子が描かれています。また、生き残ることに必死だった者や、私利私欲のために行動する者も多数登場し、人間社会の複雑さを浮き彫りにしています。

映画化と原作との違い

2013年には『ワールド・ウォーZ』として映画化されましたが、映画版は原作とは設定が大きく異なっています。映画では、主人公が世界中を飛び回り、ワクチン開発に奔走する物語ですが、原作はあくまでも人々の証言を基にしたドキュメンタリーのような形式です。映画版は走るゾンビが登場しますが、原作のゾンビは動きが鈍く、より現実的な恐怖が描かれています。

作品のテーマ

『WORLD WAR Z』は、ゾンビという存在を通して、人間の本質や社会のあり方を深く問いかける作品です。極限状態に置かれた人間がどのように行動するのか、また、世界規模の危機に対して、どのように立ち向かうべきかを読者に考えさせます。この作品は、単なるゾンビ小説ではなく、現代社会に対する警鐘とも言えるでしょう。

主な用語

ゾンビ戦争: 世界規模で発生したゾンビの感染爆発とそれに伴う戦争。約10年間続いた。
アルファチーム: アメリカが投入した対ゾンビ特殊部隊。詳細は不明。
ファランクス: ゾンビ化を止めるワクチンとされた偽薬。
大いなるパニック: ゾンビ感染爆発による略奪や事故などによる混乱。
レデカー・プラン: 南アフリカで発案された非人道的な対ゾンビ戦略。
ヨンカーズの戦い: アメリカ軍がゾンビに大敗北した戦い。
* 歩兵用標準塹壕構築具: アメリカ海兵隊員が作成した武器。

この小説は、単なる娯楽作品としてだけでなく、現代社会が直面するかもしれない危機に対する示唆に富んだ作品として、多くの読者に支持されています。

もう一度検索