WiGig

WiGig（Wireless Gigabit）とは

WiGig（Wireless Gigabit、ワイギグ）は、主に60GHz帯の無線周波数を用いる無線通信規格です。この規格は、無線通信におけるMAC層および物理層を規定しており、2009年12月に最初の正式仕様が策定されました。

技術的特徴

WiGigの最大の特徴は、比較的利用頻度の低いミリ波帯に属する60GHz帯の電波を使用することです。これにより、7～9GHzという広大な帯域幅を確保し、最大7Gビット/秒という高速なデジタル無線伝送を実現しています。

従来の無線通信方式と比較すると、通信可能距離は約10mと短めですが、HDTV動画の非圧縮データ伝送をリアルタイムで行えるほどの高い能力を持っています。60GHz帯の電波は直進性が強いため、遮蔽物の影響を受けやすいという性質がありますが、複数のアンテナを使用する指向性制御技術を用いることで、送受信特性を向上させています。

また、WiGigはシングルバンド（60GHz帯のみ）だけでなく、デュアルバンド（2.4GHz帯+60GHz帯または5GHz帯+60GHz帯）、トライバンド（2.4GHz帯+5GHz帯+60GHz帯）といったマルチバンド構成にも対応しています。

規格概要

version 1.0

2009年12月10日、Wireless GigabitアライアンスはWiGig version 1.0の正式規格を発表しました。このバージョンには以下の特徴があります。

最大データ伝送速度： 7Gビット/秒
IEEE 802.11のMACレイヤーを補足・拡張し、IEEE 802.11との後方互換性を確保
物理レイヤーは、低電力と高速伝送の両立を可能にし、ギガビット級の速度を保証
プロトコル・アダプテーション・レイヤーは、PC周辺機器やHDTV、モニター、プロジェクターなど、異なるシステムインターフェースをサポート
ビームフォーミング技術により、約10mの距離での安定した通信を実現
高度なセキュリティ機能と電力制御機能を搭載

version 1.1

2011年6月には、Wireless Gigabitアライアンスが会員企業からの要望を反映し、認証に必要な項目を整備したWiGig version 1.1を発表しました。

WiGig認証プログラム

2016年以降、Wi-Fiアライアンスは、IEEE 802.11ad規格に基づいた相互接続性を保証する認証プログラム「Wi-Fi CERTIFIED WiGig Certification Program」を開始しました。例えば、2016年10月25日には、ビューローベリタス・台湾ラボが認証を取得しています。

沿革

2009年5月7日： Wireless Gigabitアライアンスが設立され、インテル、マイクロソフト、LG電子、NEC、ノキア、サムスン電子、パナソニック、デル、ブロードコム、アセロス・コミュニケーションズなどが参加を表明。
2010年： NVIDIA、AMDなどがアライアンスに加盟。
2009年12月： WiGig version 1.0の仕様が確定。
2011年6月： 認定対応バージョン1.1がリリース。
2012年1月3日： Wi-FiアライアンスとWireless Gigabitアライアンスが活動統合計画で合意。
2013年： 両組織の統合が完了。
2012年12月： IEEE Standards AssociationがIEEE 802.11標準ファミリの修正としてIEEE 802.11ad-2012を公開。
2013年9月10日： Wi-FiアライアンスがWiGig認証ロゴを発表し、USB-IFと連携してWiGigシリアル拡張仕様を移管。また、VESAとの協定締結も発表。
2016年10月： Wi-Fi CERTIFIED WiGigの認定プログラムが開始。

採用例と業界動向

初期の製品としては、2016年頃にインテルのWiGig対応チップセットモジュール（Intel Tri-Band Wireless）や、それを搭載したデルのノートパソコン（Latitude E7450/70）、ドッキングステーションなどが登場しました。

クアルコムのSnapdragonシリーズにもWiGigが実装され、2018年にはASUSがゲームに特化したスマートフォン（ROG Phone）やドッキングステーション（ASUS WiGig Dock/Mobile Desktop Dock）を発売しました。また、インテルはワイヤレス・ギガビット 11100 VRをリリースしました。

2019年2月には、60GHz帯チップセットに注力するファブレス半導体企業Peraso Technologiesが資金調達を行い、事業拡大を図っています。

WiGig市場は、2017年には13億ドルと評価され、2023年までに93億ドルに達すると予測されています。一方で、2018年時点では採用事例が伸び悩んでおり、普及が進んでいないという報道もあります。

競合規格

WirelessHD

WirelessHDは、WiGigと同じくミリ波帯を使用する無線通信規格で、2008年1月にVersion 1.0が発表されました。これは、家庭用AV機器などのデジタル家電製品での高速無線通信を目的としており、「無線版HDMI」とも言われています。WiGigが主にパソコンや周辺機器、携帯機器での利用を想定しているのに対し、WirelessHDはデジタルTVなどの用途で競合する可能性があります。最大データ伝送速度は、WirelessHDが4Gビット/秒であるのに対し、WiGigは7Gビット/秒です。

類似規格

TGad

IEEE 802.11委員会で規格化が進められていたTGadも、同じミリ波無線としてWiGigに類似しています。TGadの推進企業もWiGigを推進するインテルであったため、両規格は融合すると見られていましたが、結果的にIEEE 802.11ad標準として統合されました。

もともとインテルは、ミリ波による高速無線技術に懐疑的でしたが、WirelessHD陣営のSiBEAM社がCMOS回路で実現したことから、方針を転換しWiGigを主導するようになりました。

脚注

関連項目

WirelessHD
IEEE 802.11

外部リンク

Wireless Gigabit Alliance

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