Delphiは、
Microsoft Windows、macOS、iOS、Android、
Linuxといった多様なプラットフォーム向けのアプリケーション開発を可能にする統合開発環境(IDE)です。Object
Pascalを拡張したDelphi
言語を使用し、各プラットフォームに最適化されたネイティブコードを生成することで、高性能なアプリケーション開発を実現します。
Delphiの特徴
Delphiの最大の特徴は、そのビジュアル開発環境にあります。「コンポーネント」と呼ばれる、あらかじめ用意されたソフトウェア部品を、視覚的に配置することでアプリケーションの
ユーザインタフェースや機能を構築できます。このコンポーネント指向プログラミングは、開発スピードを大幅に向上させ、生産性を高めることに貢献しています。さらに、Delphi自身もDelphiで開発されているため、開発者自身も自由にコンポーネントを作成し、IDEを拡張することができます。
Delphiでは、Visual Component Library (VCL)、Component Library for Cross-Platform (CLX)、FireMonkey (FMX)といった複数のフレームワークが提供されています。VCLは初期から存在するWindows専用のフレームワークで、Windows APIやコントロールを抽象化することで、Windowsアプリケーション開発を容易にします。CLXはマルチプラットフォーム対応を目指したフレームワークでしたが、
Linuxデスクトップ環境のサポートの難しさから、Delphi 7でサポートが終了しました。現在の主流は、
クロスプラットフォーム対応のFireMonkey (FMX) であり、これによりWindows、macOS、iOS、Android、
Linux向けのアプリケーションを単一のコードベースで開発することができます。ただし、Delphi IDE自体はWindows上でしか動作しません。
Delphiは、イベントハンドラーを委譲する設計パターン(Observerパターン)を採用しており、メソッドポインタを用いて柔軟なイベント処理を実現しています。ビジュアルエディタとコードエディタ間の双方向同期機能である「Two-Way-Tools」は、開発効率をさらに向上させる独自の機能です。
Delphiの歴史
Delphiは、
ボーランド社がTurbo
Pascalの後継として
1995年にリリースしました。当初はOracle Databaseサーバのフロントエンドツールとして開発されましたが、その開発環境の優れた使いやすさから、多くの開発者から支持を集めるようになりました。
Delphiはバージョン1から5までは順調に進化を続けましたが、その後
.NET Framework対応やC#サポートなどを追加したRAD Studioへと発展する過程で、製品の品質低下や開発環境の複雑化といった問題を抱える時期もありました。しかし、エンバカデロ・テクノロジーズに買収された後、.NETサポートを廃止し、Win32対応に注力することで再び品質を高め、マルチプラットフォーム対応へと進化を遂げています。
Delphiのバージョンアップは頻繁に行われ、各バージョンでは新しい機能やプラットフォームサポートの追加、パフォーマンス向上、バグ修正などが行われています。また、無料版であるCommunity Editionも提供されており、多くの開発者にとってアクセスしやすい開発環境となっています。
Delphiと関連技術
Delphiは、Object
Pascal言語、VCL/CLX/FMXフレームワーク、そしてRAD Studioといった開発環境と密接に関連しています。また、
C++Builderも同様のIDEとVCLを共有しており、Delphiと多くの共通点を持っています。歴史的には、Kylixという
Linux対応版も存在しましたが、現在は開発が終了しています。さらに、
.NET Framework向けの開発環境としてDelphi Prism (後にEmbarcadero Prism) が存在しましたが、現在はサポートが終了し、RemObjects Oxygeneへの移行が推奨されています。
Delphiで開発されたアプリケーション
Delphiは、様々な分野で幅広く利用されており、多くのアプリケーションがDelphiで開発されています。有名な例としては、バンクーバー冬季五輪のリングLED制御システム、
[欧州宇宙機関]の彗星探査機ロゼッタのシミュレータ、
ミニチュアワンダーランドの制御システムなどがあります。
まとめ
Delphiは、長年にわたる進化と改善を経て、現在も高い人気を誇る強力なアプリケーション開発環境です。そのビジュアル開発環境、
クロスプラットフォーム対応、そして豊富なライブラリは、開発者の生産性を向上させ、高品質なアプリケーション開発を支援します。