オサキ

オサキ：関東地方に伝わる狐の憑き物

オサキ（尾先、尾裂、御先、尾崎狐）とは、関東地方の山間部、特に埼玉県、東京都奥多摩地方、群馬県、栃木県、茨城県、長野県などに伝わる、狐にまつわる憑き物です。その正体は様々な説があり、地域や文献によって異なった特徴が伝えられています。

オサキの起源と名称

オサキの起源に関する説の一つとして、那須野で滅んだ九尾の狐の金色の毛が霊となり変化したという伝承があります。九尾の狐が殺生石に変化した後、源翁心昭がその祟りを鎮めるために殺生石を砕いた際に、破片の一つが上野国（現在の群馬県）に飛来し、オサキになったとされています。

名称の由来も諸説あり、「尾先」は九尾の狐の尾から生まれたことに由来するという説や、「尾裂」は尾が二股に裂けていることに由来するという説があります。また、「御先」は神の使いであることを示す「御先（みさき）」から来ているという説もあります。

オサキの見た目と生態

オサキの外見は地域や文献によって大きく異なります。曲亭馬琴の『曲亭雑記』ではイタチに似た小さな獣と記述されていますが、群馬県甘楽郡南牧村付近ではイタチとネズミ、あるいはフクロウとネズミの雑種のような生き物とされ、その大きさはハツカネズミよりやや大きい程度とも伝えられています。体色は斑色、橙色、茶と灰色の混合色など様々で、頭から尾まで黒い線が一本入っている、尾が裂けているなどの特徴も伝えられています。また、同郡下仁田町では、人間の耳のような耳を持ち、鼻の先だけが白い、四角い口をしているという記述も見られます。共通して言われているのは、その身のこなしが非常に素早く、神出鬼没で、常に群れで行動するという点です。

オサキモチと憑依症状

オサキに憑依された家や人を「オサキモチ」「オサキ屋」「オサキ使い」などと言います。オサキは普段は姿を現さず、憑依された者は金銀、米穀など、心のままに物を自由に持ち運ぶことができると言われています。そのため、オサキモチの家族は世間から避けられ、婚姻関係を結ぶことは少なく、オサキモチ同士で結婚することが多かったようです。これは、オサキの家から嫁を迎えた家もオサキモチになると信じられていたため、婚姻関係が社会的な緊張をもたらす原因の一つとなっていたと考えられます。江戸時代の『梅翁随筆』には、家筋についたオサキはどんな手段を使っても家から追い出すことができないと記されています。

オサキは家ではなく個人に憑依する場合もあり、その症状は狐憑きと同様に、発熱、異常な興奮状態、精神異常、大食、奇行などが挙げられます。群馬県多野郡上野村では、オコジョを「山オサキ」と呼び、人の後をついてくるものの、いじめると祟られると言われています。また、群馬県の別の村では、オサキを「山オサキ」と「里オサキ」に分類し、山オサキは人に憑依しないが、里オサキは人に憑依するとされています。

まとめ

オサキは、その正体や姿、生態、憑依症状など、様々な謎に包まれた存在です。古くから人々の間に伝わる様々な伝承や、文献に残された記述から、その実態の一端を探ることはできますが、オサキの真の姿は依然として不明な点が多く、多くの謎を残しています。今後も、民俗学や妖怪研究の観点から、更なる研究が進むことが期待されます。

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