さざれ石

さざれ石（さざれいし）

さざれ石とは、小さな石や小石全般を指す言葉です。漢字では「細石」あるいは「細れ石」と表記されることもあります。英語では「pebbles」と訳されます。

歴史的な使用と信仰

日本では古くからこの言葉が使われていたことが、歴史的な文献からも確認できます。例えば、8世紀に編纂された『日本書紀』には「以砂礫（サザレイシもしくはサザレシ）葺檜隈陵上」と記されており、同時代の歌集である『万葉集』でも「佐射礼伊思（サザレイシ）」や「左射礼思（サザレシ）」と詠われています。

古代日本では、小さなさざれ石が長い年月を経て成長し、大きな岩（巌）になると信じられていた巨石信仰が存在しました。民俗学者の柳田国男は、このような伝承が近代においても日本全国に少なくとも35例ほど見られると指摘しています。10世紀成立の『古今和歌集』や11世紀成立の『和漢朗詠集』の注釈では、この信仰の由来を中国の故事に求めています。そこでは、9世紀の中国の書物『酉陽雑俎』に記された、網にかかった小石を寺に祀ったところ一年で約40斤にも増量したという話が紹介されています。

国歌「君が代」との関連

『古今和歌集』に収められている歌「わがきみは千世にやちよにさざれいしのいはほとなりてこけのむすまで」は、後に日本の国歌「君が代」の歌詞として採用され、さざれ石という言葉を広く知らしめるきっかけとなりました。この歌にある「さざれ石のいはほとなりて」という表現は、前述のさざれ石が巨岩に成長するという信仰に基づいています。『古今和歌集』の序文にも「さゞれいしのいはほとなるよろこびのみぞあるべき」と記されており、この巨石信仰が「君が代」の一首に限らず、広く存在していたことが伺えます。

「君が代」に詠われるさざれ石とされる岩塊は、日本各地に存在すると主張されています。

京都府京都市右京区：千代の古道沿いにある標高97mの「さざれ石山」が挙げられます。伝説によると、嵯峨天皇がここで休憩した際に、この地の岩を見て「君が代」の歌を紹介されたことから、この岩をさざれ石と呼んで鑑賞するようになったと伝えられています。近隣で銅鐸が出土していることなどから、この地のさざれ石が歌に詠まれたものだとする説もあります。
岐阜県：伊吹山系の石灰岩が固まった石灰質角礫岩を「君が代」のさざれ石だと主張しています。これは、地元在住の学識を持たない人物が1961年に発見したとされるもので、その説には歴史的な史料に基づく裏付けがありません。しかし、1977年に春日村（現：揖斐川町）および岐阜県がこれを天然記念物に指定したことから、この主張が広まりました。岐阜県は、この石を国体に際して関係先に積極的に贈呈しています。
* 宮崎県日向市・大御神社：境内に位置する巨石を「国歌君が代に歌われるさざれ石」としています。これは、2003年の境内改修工事で見つかった礫岩を、地元の在野研究家がさざれ石だと解釈したことに始まります。ラグビー日本代表チームがワールドカップ出場前にこの石の前で国歌を斉唱することが恒例となっています。

これらの地域における「君が代のさざれ石」の主張は、それぞれ異なった背景や根拠に基づいており、歴史的な定説とは区別される必要があります。

水石におけるさざれ石

観賞用の石である水石の世界でも「さざれ石」という言葉は用いられます。広島市安佐北区にある福王寺には、寺の宝として伝わるさざれ石があります。これは江戸時代の博物学者である木内石亭の著書『雲根志』にも紹介されており、その由来は9世紀に紀伊国の浜辺で見つかった光を放つ石が都の貴族に献上され、その子孫が安芸国に移る際に持ち運んだものだが、粗末に扱うと怪異を起こしたため恐れられ、寺に奉納されたと伝えられています。この石は、文献に記されたものとしては最古の水石であるとされています。

水石としてのさざれ石に当てられた漢字には、「碝」や「瑌」があります。11世紀の辞書『類聚名義抄』などでは「碝」が当てられ、この字には玉のように美しい石という意味があります。福王寺の碑文では「瑌」が用いられ、これは玉に次いで美しい石という意味を持ちます。これらの用例は、美しい石をさざれ石と呼んだ例であり、徳川秀忠の「越白根」、足利義政の「九山八海」、鞍馬寺の「ほてい石」などもさざれ石と呼ばれた美しい石の例として知られています。

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