だいち4号

だいち4号（ALOS-4）

だいち4号（正式名称：ALOS-4、計画名：先進レーダ衛星）は、宇宙航空研究開発機構（JAXA）によって開発・運用される地球観測衛星です。2024年7月1日にH3ロケット3号機で打ち上げられ、初期校正検証運用を経て、2025年4月1日から本格的な定常運用を開始しました。本衛星は、先行機であるだいち2号の性能をさらに発展させた後継機として位置づけられています。

その主な目的は、日本国内外における防災・災害対策、国土の適切な保全や管理、広大な海域の監視、食料資源・エネルギーの確保、そして地球規模での環境問題の解決への貢献です。開発には約316億円が投じられました。

概要

「だいち」シリーズ衛星の大きな特徴は、地表を高精度で捉える高分解能と、一度に広い範囲を観測できる広域観測幅、そして連続して画像を撮り続けられる時間の長さが両立している点にあります。特にレーダ衛星である本シリーズは、Lバンド合成開口レーダであるPALSARシリーズを搭載しています。

他のレーダ衛星がCバンドやXバンドといった高い周波数帯域を利用するのに対し、だいち4号が使用するLバンドは、森林などの植生を効果的に透過して地盤や地殻変動を観測する能力に優れています。これにより、地震や火山活動による土地の変化、土砂災害の兆候などを詳細に把握することが可能になります。

だいち4号は、だいち2号と並行して運用されることで、2機体制のコンステレーションを構築しています。これにより、より頻繁かつ多角的な観測データが得られることが期待されています。

搭載機器

だいち4号には、主要な観測機器として以下の2つが搭載されています。

PALSAR-3（フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ-3）

この衛星の中核をなす観測装置であり、だいち2号に搭載されていたPALSAR-2から大幅な高性能化が図られています。最大の進化点は、新しい技術であるデジタルビームフォーミングSARが採用されたことです。これにより、以下のような観測性能の向上を実現しました。

スポットライトモード：分解能3m×1mでの観測範囲が、だいち2号の25km四方から35km四方に拡大しました。
高分解能モード：分解能3mでの観測幅が、だいち2号の50kmから200kmへと一気に4倍に広がりました。これにより、より効率的な詳細観測が可能となります。
広域観測モード：分解能25mでの観測幅が、だいち2号（分解能100m）の350kmから700kmへと大幅に拡大しました。これにより、広域モニタリング能力が飛躍的に向上しています。

これらの性能向上により、例えば日本全域を高分解能モードで観測する頻度が、だいち2号では年間4回程度だったのに対し、だいち4号では年間20回（およそ2週間に1回）という高頻度で実施できるようになりました。これは、前例のない高分解能と広域観測幅の同時達成と言えます。

主要な観測モードとスペック：

スポットライト：分解能 3m (Rg) × 1m (Az) / 観測幅 35km × 35km
高分解能 (Stripmap)：分解能 3m, 6m, 10m / 観測幅 100km または 200km
広域観測 (ScanSAR)：分解能 25m (1look) / 観測幅 700km (4scan)

衛星進行方向に直交する方向で、左右それぞれ最大1160km、入射角8度から70度の範囲で観測が可能です。

SPAISE3（衛星搭載船舶自動識別システム実験-3）

だいち2号に引き続き、船舶の自動識別信号（AIS）を受信する装置が搭載されています。地上にあるAIS局の受信範囲が沿岸から最大55km程度であるのに対し、衛星に搭載することで、直径約5,000kmという非常に広大な範囲から発信されるAIS信号を受信できます。

新型のSPAISE3は、5mの大型アンテナと8つのアンテナ素子を持ち、デジタルビームフォーミングによる信号処理で混信対策が強化されています。これにより、多くの船舶が行き交う過密な海域でも、船舶の検出性能がだいち2号よりも向上しています。具体的な性能目標として、東シナ海で1日に300隻以上の船舶AIS信号を受信することが掲げられています。

受信されたAIS信号は政府機関に提供され、PALSAR-3によるSARデータと組み合わせることで、AIS信号を発信していない不審な船舶などを確認するなど、海洋状況把握（MDA）に大きく貢献します。このシステムは日本電気が開発しました。

通信システム

取得した膨大な観測データを地上に送信するため、高性能な通信システムを備えています。

高速直接伝送系：地上との直接通信にはKaバンドを使用します。2台のアンテナを用いてそれぞれ1.8Gbps、合計で最大3.6Gbpsという高速通信を実現しています。信号のひずみを補償するDPD機能も搭載されており、降雨による信号減衰にも強い安定した通信が可能です。通信は主にJAXAの筑波宇宙センターおよび地球観測センターで行われます。

光衛星間通信システム（LUCAS）：静止軌道上に配置された光データ中継衛星との間で光通信を行います。これにより、衛星が直接地上局と通信できる時間帯以外の観測データを地上に伝送できるようになり、地上との通信時間を直接通信のみの場合と比べて約4倍に増やすことが可能です。通信速度は1.8Gbpsで、観測とほぼ同時にデータを地上へ送ったり、地上から衛星へリアルタイムで指示を送ったりすることも可能になります。

運用と歴史

だいち4号の計画は2016年11月24日に正式なプロジェクトとして移行しました。その後、開発が進められ、2024年7月1日に打ち上げに成功。計画では3ヶ月を予定していた初期校正期間は、新しいデジタルビームフォーミング技術を用いた観測画像の品質調整のため延長されましたが、2025年4月1日に無事定常運用へと移行しました。

だいち4号は、その高度な観測能力と多岐にわたるミッションを通じて、地球規模の課題解決に向けた重要な役割を担っていきます。

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