アスタキサンチン

アスタキサンチン

概要

アスタキサンチン（Astaxanthin）は、特定の藻類やエビ、サケなどに含まれる天然の赤い色素です。1938年に発見され、β-カロテンなどと同じカロテノイドの一種、特にキサントフィル類に分類されます。その名称は、ザリガニ属（Astacus）に由来します。キサントフィルの語源は「黄色の花」ですが、アスタキサンチンは鮮やかな赤色を呈するのが特徴です。

化学的特徴

分子式は C40H52O4 で、β-カロテンに類似した構造を持ちますが、両端の環状構造部分にヒドロキシ基とカルボニル基が付加しています。この構造は、フラミンゴの色素であるカンタキサンチンと関連しており、フラミンゴはアスタキサンチンを体内でカンタキサンチンに変換して利用しています。アスタキサンチンには、ヒドロキシ基の位置による3種の光学異性体（(3R,3′R)体、(3R,3′S)体、(3S,3′S)体）と、二重結合の配置による複数の幾何異性体（All-E体、9Z体、13Z体、15Z体など）が存在します。

分布と生物内での形態

アスタキサンチンは、主にヘマトコッカス藻などの微細藻類に多く含まれています。これを餌とするオキアミやエビ、カニといった甲殻類、さらにそれらを食べるタイやサケなどの魚類に蓄積されることで、自然界に広く分布しています。動物はアスタキサンチンを自分で作り出すことができないため、食物連鎖を通じて摂取しています。この点から、アスタキサンチンは植物由来のファイトケミカルと考えられます。

生物の体内では、アスタキサンチンは遊離型、モノエステル型、ジエステル型といった形態で存在し、多くは脂肪酸エステル型として血漿中のリポタンパク質と結合して運ばれます。甲殻類では、特定のタンパク質と結合したカロテノプロテインとして存在し、この状態では赤色ではなく、加熱によりタンパク質が変性してアスタキサンチンが遊離することで本来の赤色が現れます。これが、エビやカニを加熱すると赤くなる理由です。

生理作用と利用

アスタキサンチンは、その強力な抗酸化作用が特に注目されています。紫外線や酸化ストレスから生体を守る働きがあるとされ、その抗酸化力は他の有名な抗酸化物質と比較しても非常に高いことが示唆されています。また、光ダメージから目を保護する可能性も研究されています。これらの機能への期待から、アスタキサンチンはサプリメントや健康食品、基礎化粧品などの様々な製品に配合されています。しかし、ヒトにおけるアスタキサンチンの有効性や安全性に関する科学的な根拠は、まだ十分には確立されていません。

興味深い話

沖縄の一部で信じられている「ヤシガニを煮て赤くならなければ毒がない」という説は迷信です。アスタキサンチンは加熱により必ず赤く変色します。また、サケの身肉が赤いのは餌のアスタキサンチンによるものですが、産卵期にはその色素が皮膚や卵に移動し、身肉は本来の白っぽい色に戻ります。

工業生産

天然アスタキサンチンは、主にヘマトコッカス藻を利用した培養によって工業的に生産されています。1994年に日本の富士化学工業グループがこの技術を確立し、現在では世界各地に生産拠点を持ち、広く供給されています。

もう一度検索