アートマン

アートマン（Ātman）とは

アートマン（आत्मन् Ātman）は、ヴェーダ宗教における重要な概念で、個々の深層に存在する意識の根源を表します。この用語は「真我」とも呼ばれており、インド哲学では自己の中心的な存在として位置付けられています。アートマンの理解は流派によってさまざまですが、個人の自己（Jīvātman）、至高の自己（Paramātmā）、究極の現実（Brahman）との関係は、主に三つの見解に分類されます。それは、アートマンとブラフマンが完全に同じであるとする非二元論（Advaita）、二者が完全に異なり独立しているとする二元論（Dvaita）、そして両者が非異なるが同時に異なるとする非同一かつ同一の見解（Bhedabheda）です。

このように、アートマンの概念はただの哲学的な語彙にとどまらず、ヒンドゥー教の六大正統派の中では、すべての生命体（Jiva）にアートマンが宿るとの教えが広がっています。これは「体」と「心」の複合体とは異なるものであり、他の宗教、特に仏教とは顕著に対立する点です。仏教は「無我説」という中心思想を持ち、永遠不変の自己を否定しています。これにより、アートマンの存在はより一層特異な位置を占めることになります。

語源と発展

アートマンという語の起源は、梵語の「ātman」で、元々は「呼吸」を意味していました。この言葉は後に生命の本質、自我の中心、さらには全ての存在の根源としての意味を持つようになります。サンスクリット語の「Atma」は「最も内側」を意味し、アートマンは個体の中心に位置し、認識を行う存在です。しかし、アートマン自身は知るものと知られるものの両方を超えた存在として扱われ、認識の対象とはなりません。

ヴェーダおよびウパニシャッドの時代

アートマンの理念は『リグ・ヴェーダ』の時代から用いられ、その後の『シャタパタ・ブラーフマナ』では、言葉や感覚といった全ての生命現象はアートマンに根差し、アートマンによって一体化されると考えられています。さらには、アートマンは創造主（Prajāpati）とも同一視され、宇宙を形作る根本原理としての役割を担うようになります。ウパニシャッドにおいては、アートマンは宇宙を創造した存在として描かれ、個人の小我と宇宙の大我が一体であるという認識が高まりました。ここで、アートマンとブラフマンとの一致が強調され、求められるのはその一体性でした。
この時期には、アートマンは不滅であり、個人の肉体が消滅した後もアートマンは永続的に存在し続け、他の存在と一体となっているという考えが広まります。

他の宗教や哲学との対比

ヒンドゥー教においてアートマンは形而上学的かつ精神的な重要性を有しますが、仏教はこれに対して異なる立場をとります。仏教では、自我の存在を否定し、無我の視点から世界を解釈します。釈迦は問いに対して明確に答えず、永続的な自己や存在の否定を通じて無我を示しました。これにより、各宗教はアートマンに対する考え方が異なり、インド哲学全体に影響を与えているのです。

アートマンの概念は、個人の存在を深く考察するための基盤を提供し、自己の本質とは何かを問い直させる重要な思想として、今なお多くの人々に影響を与え続けています。

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