ウィリアム・フリードキン

ウィリアム・フリードキン：映画史に刻まれた異才の軌跡

ウィリアム・フリードキン（William Friedkin、1935年8月29日 - 2023年8月7日）は、アメリカ合衆国の映画監督です。その作風は、社会派ドラマからサスペンス、ホラーまで多岐にわたり、常に観客を驚かせ、時に物議を醸しながらも、映画史に大きな足跡を残しました。

生い立ちとキャリアの始まり

フリードキンは、イリノイ州シカゴで、ウクライナからのユダヤ系移民の両親のもとに生まれました。彼の家族は、帝政ロシア下のポグロムから逃れてきた人々でした。高校時代はバスケットボール選手として活躍しましたが、父親の死により大学進学を断念。1955年に地元のテレビ局でメッセンジャーボーイとしてキャリアをスタートさせ、アシスタントディレクターを経て、ドキュメンタリー映画の制作に携わるようになります。1962年のドキュメンタリー映画『人民対ポール・クランプ』は、無実の罪で死刑宣告された黒人青年を描き、彼の釈放につながるという社会現象を巻き起こしました。

ハリウッドへ、そして成功

1965年、フリードキンはハリウッドに移り、1967年に『ソニーとシェールのグッド・タイムス』で劇場映画監督デビューを果たします。その後、1971年に監督した『フレンチ・コネクション』は、興行的にも批評的にも大成功を収め、アカデミー賞で作品賞を含む5部門を受賞し、フリードキン自身も監督賞を獲得しました。この作品は、アメリカン・ニューシネマの傑作として、今日でも高く評価されています。

さらに、1973年のホラー映画『エクソシスト』もまた、大きな話題を呼び、興行的成功と高い評価を得ました。この作品は、悪魔祓いをテーマにしたホラー映画として、その後のホラー映画に多大な影響を与え、映画史に残る傑作として知られています。

挑戦と物議を醸した作品たち

しかし、1977年の『恐怖の報酬』は、多額の制作費をかけたものの、興行的にも批評的にも失敗に終わります。しかし、この作品もまた、現在では再評価が進んでいます。

その後も、フリードキンは『クルージング』や『L.A.大捜査線/狼たちの街』、『英雄の条件』、『キラー・スナイパー』など、物議を醸す作品を次々と発表し、常に観客を挑発し続けました。2000年代からは、オペラの演出も手掛けるなど、その才能は多岐にわたりました。

2018年には、フリードキンの映画人生を追ったドキュメンタリー映画『フリードキン・アンカット』が公開され、彼の映画に対する情熱や人間性が描かれました。2023年8月7日、肺炎と心不全の併発症により、87歳で亡くなりました。

日本映画への愛情

フリードキンは、日本映画にも深い愛情を持っており、深作欣二監督の『仁義なき戦い』や今村昌平監督の『復讐するは我にあり』を好んでいました。1980年の来日時には、深作欣二監督と対談も行っています。また、『仁義なき戦い』の海外版DVDの特典映像にも登場しており、彼の日本映画への愛着がうかがえます。東映の宣伝マンを「ヤクザ、ヤクザ」と呼んで周囲を困惑させたという逸話も残っています。

主要なフィルモグラフィー

長編劇映画
ソニーとシェールのグッド・タイムス (1967)
誕生パーティー (1968)
警察がミンスキー劇場をガサ入れした夜 (1968)
真夜中のパーティー (1970)
フレンチ・コネクション (1971)
エクソシスト (1973)
恐怖の報酬 (1977)
ブリンクス (1978)
クルージング (1980)
世紀の取り引き (1983)
L.A.大捜査線/狼たちの街 (1985)
ランページ/裁かれた狂気 (1987)
ガーディアン/森は泣いている|ガーディアン_森は泣いている (1990)
ハード・チェック (1994)
ジェイド (1995)
英雄の条件 (2000)
ハンテッド (2003)
BUG/バグ (2006)
キラー・スナイパー (2011)
The Caine Mutiny Court-Martial (2023) ※遺作、死後に公開

テレビなど
Walk Through The Valley (1960) - 教会PR映画
The People vs. Paul Crump (1962) - テレビドキュメンタリー
The Bold Men (1965) - テレビドキュメンタリー
The Alfred Hitchcock Hour シーズン3 第29話 "Off Season" (1965) - テレビドラマ
Pro Football: Mayhem on a Sunday Afternoon (1965) - テレビドキュメンタリー
The Thin Blue Line (1966) - テレビドキュメンタリー
Pickle Brothers (1967) - テレビ映画
Fritz Lang Interviewed by William Friedkin (1975) - 長編ドキュメンタリー
Self Control (1984) - ローラ・ブラニガンのミュージックビデオ
新トワイライト・ゾーン シーズン1 第4話「帰還兵」"Nightcrawlers" (1985) - テレビドラマ
To Live and Die in LA (1985) - ワン・チャンのミュージックビデオ
Somewhere (1985) - バーブラ・ストライサンドのミュージックビデオ
C.A.T.スクワッド/対ゲリラ特別襲撃班 (1986) - テレビ映画
C.A.T.スクワッド2/国際テロパイソン・ウルフの挑戦状 (1988) - テレビ映画
新ハリウッド・ナイトメア シーズン4 第3話「マジック・タトゥー」"On a Deadman's Chest" (1992) - テレビドラマ
ゲッタウェイ!エンジェル (1994) - テレビ映画
12人の怒れる男 評決の行方 (1997) - テレビ映画
The Painter's Voice (2007) - 短編ドキュメンタリー
CSI:科学捜査班 シーズン8 第9話「アルカポネの椅子」"Cockroaches" (2007) - テレビドラマ
CSI:科学捜査班 シーズン9 第18話「オグンのいけにえ」"Mascara" (2009) - テレビドラマ、通算200話記念作品
* 悪魔とアモルト神父 現代のエクソシスト (2017) - 中編ドキュメンタリー

まとめ

ウィリアム・フリードキンは、映画界に多大な影響を与えた革新的な監督でした。その作品は、観客を魅了し、時に挑発し、常に議論の的となり、その異才は映画史に永遠に刻まれることでしょう。

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