エアロジェット:アメリカ宇宙開発を支える推進力
エアロジェット社は、ロケットやミサイルの推進システムを専門とする、アメリカを代表する企業です。
カリフォルニア州サクラメントに本社を置き、
ワシントン州、
バージニア州、
アーカンソー州などにも主要拠点を展開しています。固体燃料と液体燃料、両方のロケットエンジンの製造を手がける、アメリカ唯一のメーカーとして知られています。
その製品は、NASAの宇宙船用メインエンジンから、小型衛星の軌道維持用推進装置まで多岐に渡り、EELVアトラスVロケットのブースターのような大型エンジンも製造しています。
アメリカ陸軍の戦術ミサイル用ロケットモーターのほぼすべてを供給しているほか、ラムジェットやスクラム
ジェットエンジン、さらには電気推進システムの研究開発にも取り組んでいます。かつては
ロケットダイン社、ATK社と並ぶ、アメリカにおけるロケットエンジン専業の主要3社の1社でした。2013年には、
ロケットダイン社と合併し、エアロジェット・
ロケットダイン社となりました。
創業と初期の歩み
エアロジェット社の歴史は、
1936年にセオドア・フォン・カルマン博士らによる集会に遡ります。
カリフォルニア工科大学教授や学生、そして民間ロケット工学研究者たちが集まり、宇宙飛行の可能性を探求しました。
1938年、
アメリカ陸軍から航空機用ロケットエンジンの開発依頼を受け、本格的な事業が始動します。
1942年、エアロジェット・エンジニアリング社が正式に設立されました。
初期は、航空機の離陸補助装置(JATO)用の小型固体燃料ロケットモーターの開発・製造が中心でした。第二次世界大戦中は、軍からの大量発注に応える形で急成長を遂げます。戦後、同社は研究開発に投資を続け、液体燃料ロケットや新型固体燃料ロケットの開発に成功しました。エアロビー気象観測ロケットは、同社の技術力を示す代表的な成果です。1万機以上が打ち上げられ、地球大気の観測に大きく貢献しました。
軍事・宇宙開発への貢献
1950年代以降、エアロジェット社は
アメリカ空軍のタイタンやミ二ットマン
大陸間[[弾道ミサイル]]計画、
アメリカ海軍のポラリス潜水艦発射
弾道ミサイル計画などに推進システムを提供するなど、軍事分野での貢献も拡大しました。アポロ計画では、アポロ司令船の
姿勢制御システム用推進装置を提供。宇宙分野でも大きな役割を果たしました。
ベトナム戦争期には、兵器システムの開発・供給も増加しました。MXミサイル用ロケットモーター、
スペースシャトル用推進システム、
クラスター爆弾など、様々な兵器システムの開発に携わりました。また、
劣化ウラン兵器の主要供給元としても知られています。
1980年代には、レーガン政権の
戦略防衛構想(SDI)にも参加しました。
環境問題への取り組み
長年にわたるロケット製造活動に伴い、エアロジェット社の工場周辺では土壌・
地下水の汚染が発生しました。
トリクロロエチレン(TCE)やロケット燃料の副産物などが検出され、スーパーファンド指定を受ける事態に。その後、同社は州・連邦政府と協力して、汚染浄化に取り組んでいます。
地下水の汲み上げ・処理システムの設置、汚染土壌の除去など、大規模な浄化作業が進められています。
現在と未来
近年、エアロジェット社は事業規模を縮小し、一部の工場は閉鎖されました。しかし、研究開発部門は「航空防衛部門」として存続し、
ミサイル防衛システム、精密攻撃兵器、宇宙機用推進システムなどの開発・製造を継続しています。近年は、高性能な電気推進システムの開発にも成功し、大型通信衛星への搭載を目指しています。
アメリカ空軍の次世代AEHF衛星システムにも、同社の推進システムが採用されています。
エアロジェット社は、ジェンコープ社の傘下企業として、長きに渡りアメリカにおける宇宙開発、軍事技術の発展に貢献してきました。これからも、革新的な推進システム技術の開発を通じて、世界に貢献していくことが期待されています。