クリップボード

コンピュータにおけるクリップボード：データの一時保管庫と共有機能

コンピュータのクリップボードは、アプリケーション間でデータのやり取りを円滑に行うための重要な役割を担う一時的な記憶領域です。ユーザーは、クリップボード機能を通じて、テキスト、画像、その他の様々なデータ形式をアプリケーション間でコピー、カット、ペーストできます。直感的には、コピー＆ペースト操作における一時保管場所と捉えることができます。

クリップボードの動作とデータの再現性

クリップボードは通常、一度に一つのデータしか保持できません。新しいデータがコピーまたはカットされると、以前のデータは上書きされます。クリップボードに保存されたデータの再現性は、データを受け取るアプリケーションによって異なります。例えば、ワープロソフトで作成した書式付きのテキストを、プレーンテキストエディタにペーストした場合、フォントや罫線といった書式情報は失われ、テキストデータのみが貼り付けられます。これは、受け取るアプリケーションが対応していないデータ形式を無視するためです。

クリップボードの機能を拡張するユーティリティも存在し、複数のクリップボード履歴を保持する機能を提供するものもあります。Emacsエディタなどで使われるキルリング機能は、クリップボードと類似した機能を持ち、複数の履歴を保持できます。多くのオペレーティングシステムでは、クリップボードの内容を参照できるユーティリティが提供されています。

クリップボード操作：コピー、カット、ペースト

クリップボードの基本的な操作は、以下の3つです。

コピー（複写）： 選択したデータをクリップボードに複製します。元のデータは変更されません。
カット（切り取り）： 選択したデータをクリップボードに移動します。元のデータは削除されます。
* ペースト（貼り付け）： クリップボードのデータを現在のアプリケーションに貼り付けます。

コピーとカットは、クリップボードへのデータ書き込みという点では同じ動作ですが、元のデータの有無が異なります。これらの操作は、ユーザーによる明示的な操作だけでなく、アプリケーションの自動機能によっても実行される場合があります。

クリップボードの歴史：発明から進化まで

クリップボードの概念は、Pentti Kanervaによる初期のテキスト編集システムで既に存在していました。しかし、現在の「コピー」「カット」「ペースト」という用語とクリップボードという名称は、1973年にラリー・テスラーによって考案されました。「削除」という用語では、テキストの除去と再現という機能を表すのに不適切だと判断し、文房具のクリップボードに例えて命名したのです。この機能は、ラリー・テスラーとティム・モットによってGypsy、Smalltalk-76に実装され、Altoシステム上で動作しました。

各オペレーティングシステムにおけるクリップボード

macOS

macOSでは、「編集」メニューからの選択や、コマンドキーを使ったショートカットでクリップボードを操作します。標準的なキーバインドは、多くのアプリケーションで共通です。Finderの「クリップボードを表示」メニュー項目で、クリップボードの内容を確認できます。macOSでは、標準のクリップボードとは別に、Emacsスタイルのキルリング機能が利用できますが、複数の履歴保持には対応していません。

X Window System

UNIXやLinuxで広く使われるX Window Systemは、X Window selectionを通じてクリップボードを提供します。選択は非同期であり、要求があったときにのみデータがコピーされ、必要な形式に変換されます。プライマリー選択とクリップボード選択という2つの選択機構があり、プライマリー選択はデータがハイライトされた時点でコピーされ、ミドルマウスボタンで貼り付けられます。クリップボード選択は、伝統的なクリップボードの動作に対応しています。GNOMEやKDEなどのデスクトップ環境では、freedesktop.orgの仕様に準拠したクリップボード操作が提供されています。

Microsoft Windows

Windowsでも、メニューやキーボードショートカットでクリップボード操作を行います。初期のWindowsでは、Shift、Ctrl、Delete、Insertキーの組み合わせが用いられていましたが、Macintoshの影響で、Ctrl+C、Ctrl+V、Ctrl+Xの組み合わせも導入されました。Windows XP以前にはクリップブックというクリップボードビューアが提供されていましたが、後続のバージョンでは機能が変更または統合されています。Microsoft Officeは、Office 2000から独自のOfficeクリップボードを実装し、複数の履歴の保持と管理を容易にしています。Windows 10（バージョン1809）からは、クリップボードメニューが強化され、項目のピン留め、複数データの追加、クラウド経由でのデバイス間共有などが可能になりました。

まとめ

クリップボードは、現代のコンピューティングにおいて不可欠な機能です。そのシンプルなインターフェースの裏には、OSやアプリケーション間での複雑なデータ共有機構が存在します。本稿では、クリップボードの基礎から歴史、そして主要OSにおける具体的な操作方法までを解説しました。今後の進化にも期待しましょう。

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