ジュンド

ジュンド (Jund) とは：イスラム世界の軍事用語

ジュンド（アラビア語: جند、複数形: アジュナード اجناد）は、元来、征服された土地におけるアラブ軍の軍事植民地を指す軍事用語でした。特に、大シリア地方の軍事区画を指す言葉として用いられました。その後、イスラム世界の各地で様々な意味合いを持つようになります。

用語の起源と発展

アラビア語の語根 "jnd" に由来するジュンドは、13世紀の辞書『リサーン・アル＝アラブ』において「支持者の集団」を意味し、クルアーンでは武装集団を指す言葉として登場します。ウマイヤ朝時代には、歴史家ドミニク・スールデルによれば、「季節的な軍事行動や長期遠征のために動員されるアラブ軍兵士の軍事集落、または軍事地区」を意味する専門用語として用いられました。また、軍の俸給と備蓄を管理する財政部門、ディーワーン・アル＝ジュンド（dīwān al-jund）も存在しました。

9世紀から10世紀にかけての地理学者は、アジュナードという用語を複数のミスル（主要都市）に相当するものとして使用していました。

シリアにおけるジュンド

ジュンドという用語が最も顕著に使用されたのはシリア地方です。正統カリフ時代に、アブー・バクルがこの地域をヒムス（ジュンド・ヒムス）、ダマスカス（ジュンド・ディマシュク）、ヨルダン（ジュンド・アル＝ウルドゥン）、パレスチナ（ジュンド・フィラスティーン）の4つの軍事区に分割したのが始まりとされます。後に、ウマイヤ朝のカリフ、ヤズィード1世がキンナスリーン（ジュンド・キンナスリーン）を加えました。

この制度はシリア独自のもので、通常単独の総督が支配するイスラム帝国内の他の地域では模倣されませんでした。これらのジュンドは、総称してアッ＝シャマート（複数のシリア）と呼ばれることもありました。

ジュンドの境界線は、イスラム教徒による征服以前の東ローマ帝国時代の地方行政区分を基に定められましたが、一部変更も加えられました。これらの軍事区は、シリア全体の支配を維持し、東ローマ帝国からの攻撃を防衛するための軍事防衛システムとして機能しました。各ジュンドの首都は、互いに等距離に配置され、海からの攻撃を受けにくい内陸部に置かれました。これは、統制と動員を円滑に行うための措置でした。

シリアの各ジュンドの軍団は、地租（ハラージュ）収入から一定の俸給（アター）を受け取るアラブ人で構成され、公有地も与えられました。軍事行動時には、これらの軍人は家臣（シャーキリーヤ）を率い、志願兵によって軍団は増強されました。

アッバース朝時代以降、マムルーク朝時代に至るまで、シリアにおけるジュンドの分割は継続されました。アッバース朝の下では、シリア総督がすべてのジュンドを統括することが多く、785年にはハールーン・アッ＝ラシードが新たにジュンド・アル＝アワースィムを設置し、東ローマ帝国との国境地帯を包含しました。

エジプトにおけるジュンド

エジプトでは、イスラム教徒による征服直後にフスタートに軍事植民地（ミスル）が建設されました。ミスルを構成するアラブ人入植者は、エジプトにおけるジュンドとして知られるようになりました。彼らはシリアのジュンドと同様に軍の登録簿に登録され、一定の俸給を受け取りました。入植者たちは長らく地域における唯一のイスラム軍事力であり、政治活動において重要な役割を担いました。しかし、アッバース朝の内戦による混乱の中で権力が崩壊するまでの2世紀間、彼らは特権的な地位を維持しました。

アル＝アンダルスにおけるジュンド

イベリア半島のイスラム支配地域（アル＝アンダルス）でも、ジュンド制度が導入されたと考えられています。742年、イベリア半島征服に従事した軍隊に対し、9つの地区（ムジャンナダ）の土地が割り当てられました。10世紀までに、ジュンドは外国人の傭兵（ハシャム）と志願兵（フシュド）を含む兵員を意味する用語となりました。

マグリブにおけるジュンド

マグリブでは、ジュンドはイフリーキヤで興ったアグラブ朝において、統治者の護衛兵を指す言葉となりました。ドミニク・スールデルによれば、この用法以降、「軍全体に適用されることは稀で、多くの場合定義が難しい限定的な意味で用いられました」。同様の用法は、マムルーク朝統治下のエジプトにも存在し、スルターンの私兵における特定の部隊を指すものとして用いられました。

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