ハラージュ

ハラージュ：イスラーム法における土地税の歴史

ハラージュ(kharāj)は、イスラーム法における[土地]]に対する課税制度です。人頭税であるジズヤ]と対比され、[[土地や家畜を対象とした租税として、イスラーム諸国家の主要な財源として機能してきました。本稿では、ハラージュの起源から現代までの歴史的変遷と制度的特徴を詳述します。

ムハンマド時代と正統カリフ時代

ハラージュの起源は、ムハンマドがユダヤ教徒の[農地]]から収穫物の半分を徴収したことに遡るとされます。しかし、初期のアラビアでは土地そのものへの課税は存在せず、ジズヤやザカート]が主要な税制でした。[[土地と収穫物への課税が制度化されるのは、正統カリフ時代（632-661年）以降、イスラーム世界の急速な拡大に伴ってです。

第2代カリフ、ウマル1世は広大な領土の征服を推進し、サーサーン朝ペルシアや東ローマ帝国の制度を導入して、効率的な徴税システムの構築に着手しました。征服地では、アラブ人が非アラブ人や非ムスリムからジズヤとハラージュを徴収する制度が採用され、安全保障と引き換えに和平条約が締結されました。イスラーム政権の保護下に入った非ムスリムはズィンミーと呼ばれ、宗教や慣習は尊重されました。

ウマイヤ朝

ウマイヤ朝（661-750年）では、非アラブ人からのハラージュ徴収が制度化されました。特に、アブドゥルマリク（在位:685-705年）とハッジャージュは、改宗したムスリムからもハラージュを徴収する政策を推し進め、税務官庁ディーワーン・アル＝ハラージュを設立しました。しかし、この政策はマワーリー（非アラブ人改宗者）からの不満を招き、ウマル2世（在位:717-720年）はマワーリーからのジズヤ徴収停止を図るなど、税制改革を試みました。

アッバース革命とアッバース朝

アッバース革命（750年）の後、アッバース朝（750-1258年）は、ハラージュにおける民族差別を撤廃しました。ムスリムであればアラブ人か否かに関わらずジズヤは免除され、土地所有者にはハラージュが課されるようになりました。「神の前での平等」が実現し、イスラーム法(シャリーア)に基づく公正な税制を目指しました。ハラージュは国庫収入の主要部分を占め、各地に税務庁が設置され、徴税組織は整備されました。課税方法は、定額制のミサーハと産額比率制のムカーサマの2種類がありました。

アブー・ユースフによる『ハラージュの書』は、アッバース朝におけるハラージュ制度の重要な解説書です。また、イスラーム王朝は改宗を積極的に奨励せず、ジズヤやハラージュの徴収を継続することで、ズィンミーの信仰の自由を保障しました。マーワルディーの『統治の諸規則』では、ハラージュの課税基準や徴税者の責務が論じられています。

イクター制

10世紀以降、地方政権の自立化と財政難から、イクター制が導入されました。イクター保有者は、ハラージュやウシュルの徴収権を与えられ、その収入で兵士を養い、軍事奉仕を行いました。イクター制により、ハラージュ徴収権の世襲化が進み、トルコ系王朝における封建的な地主層が形成されました。

現代

現代のイスラーム諸国では、シャリーアに基づく税制ではなく、世俗法に基づく税制が採用されています。

まとめ

ハラージュは、イスラーム世界の政治・経済・社会構造に深く関わる重要な制度でした。その歴史的変遷は、イスラーム世界の拡大、民族・宗教間の関係、国家財政のあり方など、多様な側面を反映しています。ハラージュの歴史を理解することは、イスラーム世界の歴史を理解する上で不可欠です。

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