ジョン・ブラウン・アンド・カンパニー:クライドバンクの造船史を彩った名門
ジョン・ブラウン・アンド・カンパニーは、
スコットランドのウェスト・ダンバートンシャイア、クライドバンクに存在した造船会社です。その技術力と建造した数々の著名な艦船により、世界的な評価を得ていました。
創業と発展
1847年、技術者ロバート・ネイピアのもとで働いていたジェームス・トムソンとジョージ・トムソンの兄弟が、
グラスゴーで造船所を設立したのが始まりです。当初は「J&Gトムソン」という社名でしたが、
1851年にセスノックに、さらに
1871年にはクライドバンクへと拠点を移しました。クライド川とカート川の合流地点という立地は、大型船の進水に理想的でした。
1900年代初頭には、ブラウン・カーチス式
タービンを開発し、海洋工学の分野で革新をもたらしました。この
タービンは、その性能の高さから英国海軍に採用され、多くの主力艦に搭載されることとなりました。
黄金期
1899年に
シェフィールドの鉄鋼会社に買収され、社名が「ジョン・ブラウン社」となりました。この頃から同社は、世界の主要な造船所のひとつとして、数々の軍艦や客船を建造しました。
主な建造艦船:
シティ・オブ・パリ
シティ・オブ・ニューヨーク
ルシタニア(キュナード社):1915年に雷撃で沈没
アキタニア(キュナード社)
フッド(巡洋戦艦)
タイガー(巡洋戦艦)
レパルス(巡洋戦艦)
バーラム(戦艦)
クイーン・メリー(キュナード社):現在はカリフォルニア・ロングビーチでホテル兼会議場
クイーン・エリザベス(キュナード社):
1972年に
香港で火災により
沈没
クイーン・エリザベス2(キュナード社)
しかし、ワシントン海軍軍縮条約により、ネルソン級戦艦の機関開発において、軍の要求に応えられず、機関建造の契約が打ち切られました。以降は船体のみの建造となりました。
戦後と衰退
第二次世界大戦後、海軍からの発注が激減し、イギリスの造船所は大きな打撃を受けましたが、ジョン・ブラウン社は、キュナード社の大型客船「クイーン・メリー」と「クイーン・エリザベス」の建造により、一時的に経営を立て直しました。
しかし、1950年代後半になると、ヨーロッパや韓国、日本などの造船国が台頭し、イギリスの造船業界は競争力を失いました。ジョン・ブラウン社も例外ではなく、経営難に陥りました。特に、客船「クングスホルム」の建造契約で損失を出したことや、キュナード社の新造船のコスト上昇が重なり、経営はさらに悪化しました。
1960年代半ばには、経営陣が造船所の非効率性を認め、閉鎖の危機に直面しました。最後に受注した定期客船は「クイーン・エリザベス2」でしたが、その後、造船所はアッパー・クライド造船グループに吸収されました。1971年にはグループが解体され、1972年に穀物運搬船「アリーサ号」を最後に、造船所としての歴史に幕を下ろしました。
クライドバンクの施設は、その後、様々な所有者の下で北海油田の海上プラットフォームを建造するなどして、2001年まで稼働しました。一方、同社のエンジニアリング部門は、トラファルガー・ハウスやクバーナーに買収され、さらに分割・売却を繰り返した後、現在はCB&I UK社となっています。
再開発
現在、造船所の跡地は、ウェスト・ダンバートンシャイア議会とスコットランド開発公社によって、再開発が進められています。クライドバンクのウォーターフロントを市民が利用しやすいように整備することを目的として、歴史的なタイタンクレーンの再生、大学の新キャンパス建設、インフラ整備、オフィス街や商業施設、住宅地の整備などが計画されています。また、かつてこの地で建造された「クイーン・エリザベス2」を再び呼び戻す計画もありましたが、2007年に同船がドバイに売却されたため、実現には至りませんでした。
その他の主な建造艦船
王室ヨット・ブリタニア
イギリス海軍駆逐艦エンタープライズ
イギリス海軍防空フリゲート・リンクス
オーストラリア海軍巡洋戦艦オーストラリア
オーストラリア海軍重巡洋艦オーストラリア
イギリス海軍駆逐艦イカルス
ガングート級戦艦
旧日本海軍戦艦朝日
参考文献
Clydebank Restoration Trust - Restoring Heritage & Pride
http://www.theclydebankstory.com/story_TCSC03.php - A summary of the history of the company.
R.D. Thomas, B.Patterson, Dreadnoughts in Camera 1905-1920, 1998, Sutton Publishing
Clyde built ships data base - lists all ships built on the Clyde - http://www.clydesite.co.uk/clydebuilt/index.asp
Regeneration Masterplan