スティレット

スティレット：鎖帷子貫く、慈悲の短剣

中世後期、鉄の鎖で編まれた鎖帷子（チェインメイル）が広く普及すると、従来の剣では効果的な攻撃が難しくなりました。この状況下で、新たな武器として誕生したのがスティレットです。イタリア、特に北ヴェネト州で作られたものは「フセット」と呼ばれ、その鋭利な先端は、厚い防具を容易に貫通する能力を備えていました。

スティレットは、短剣の一種ですが、その特徴は独特です。全長約30cmと、短剣としては比較的長く、十字架のような形状をした先端は鋭く尖っています。しかし、両刃ではなく、片刃のみが鋭利に研ぎ澄まされています。先端の形状は、四角形、三角形、あるいは平たいものなど様々ですが、いずれも鎖帷子や鎧の隙間を突いて敵を貫くことを目的としています。

その用途から、瀕死の重傷を負った騎士にとどめを刺すために用いられたことから、「慈悲の一撃」を意味するミセリコルデ（misericorde）とも呼ばれます。これはラテン語のmisericordia（慈悲）に由来し、敵の苦しみを短く終わらせるという、皮肉とも取れる意味合いを含んでいます。

熟練した戦士であれば、スティレットで鎧ごと敵を貫くことも可能だったと言われています。しかしながら、他の武器と比較してリーチが非常に短いため、主要な武器として用いられることは少なく、主に脇に携行し、とどめの一撃を放つための武器として使用されたと考えられています。12世紀以降はドイツやイングランドなどでも広く用いられるようになりました。

スティレットは、そのコンパクトさと高い貫通力から、現代においても暗殺兵器としてフィクション作品で取り上げられています。イギリスの作家ケン・フォレットのスパイ小説『針の眼』（1978年発表、1981年映画化）では、暗殺者が愛用する武器として設定されており、その携行性の高さが物語の中で強調されています。また、近年のスパイアクション漫画・アニメ『SPY×FAMILY』においても、主要人物であるヨル・フォージャーが暗殺任務で使用している武器として登場し、スティレットの高い殺傷能力が再認識されています。

スティレットは、その歴史的背景やデザイン、そしてフィクション作品における描写を通して、中世の戦闘技術や武器開発の歴史を理解するための重要な手がかりとなっています。また、冷酷な殺戮兵器としての側面と、敵の苦しみを短く終わらせるという、ある意味では「慈悲」を込めた側面の両面を併せ持つ、興味深い武器と言えるでしょう。

参考文献

(具体的な参考文献をここに追記)

関連項目

エストック
鎧通し

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