たたりもっけ

たたりもっけ：青森県に伝わる祟りの怪異

「たたりもっけ」は、青森県に伝わる怪異です。主に、

死んだ嬰児の霊
無念の死を遂げた者の怨念

などが祟りとなって現れると考えられています。地域によって解釈や伝承に違いが見られますが、家全体を巻き込む災厄や、代々にわたる祟りなど、恐ろしい事例が数多く報告されています。

死んだ嬰児の霊としての「たたりもっけ」

北津軽郡嘉瀬村（現・五所川原市）では、死んだ嬰児の霊を「たたりもっけ」と呼びます。こうした霊はフクロウに宿るとも言われ、フクロウの鳴き声を死んだ嬰児の泣き声と捉え、子供を亡くした家ではフクロウを大切にする風習があったそうです。

かつての日本では、嬰児は人間として認められていないという考え方があり、亡くなった嬰児は墓ではなく家の周囲に埋葬されることが多かったようです。そうした嬰児の霊のうち、祟りのないものは座敷童子と見なされ、祟るものを「たたりもっけ」と呼んだという見方もあります。

怨念が祟りとなる「たたりもっけ」

青森県北津軽郡や西津軽郡では、人が惨殺された後、その者の怨みによって、加害者だけでなく、その家全体が祟られることを「たたりもっけ」と言います。祟られた家では、怪火や怪音などの怪異が頻発し、家人が病気になったり、一家全滅に追いやられたり、その後の代々にわたって祟りが及ぶとされています。

民俗学者の内田邦彦は、「たたりもっけ」に「祟り蛙」という漢字表記を当てています。これは、「蛙」を嬰児の意味とし、この地域で嬰児を「もけ」と呼ぶことや、かつて貧困から堕胎や子殺しが多かったことに由来すると考えられています。つまり、「たたりもっけ」は、葬られることのなかった嬰児の祟りであるという解釈です。

「たたりもっけ」の事例

実際に報告されている「たたりもっけ」の事例を見てみましょう。

飯詰村のさえこの祟り: 凶作の年に、村人がさえこという女性に罪をなすりつけ、死罪にして淵に沈めました。その後、さえこを陥れた村人は一家ともども死に絶え、さえこが沈められた淵は「さえこ田」と呼ばれ、祟りを恐れられました。
天明の大飢饉の博労殺し: ある者が博労を殺して金を奪い、その罪を隠すために博労の妹も殺害しました。その後、博労たちを殺した者の家では精神を病む者が多く現れ、代々にわたる祟りとして恐れられました。
* 七里長浜の難破船: 七里長浜では、難破船の乗組員を殺して金品を奪うことが横行していました。ある村人が難破船の船頭を殺害したところ、船頭の墓石の文字が年々鮮明になり、殺した村人の家では代々、盲目の者が生まれたり、出産時に女性が亡くなったりするなどの祟りが続いたと言われています。

類話：太平百物語「女の執心永く恨みを報いし事」

享保時代の怪談集『太平百物語』には、「女の執心永く恨みを報いし事」という話が収録されており、同様に無念の死を遂げた女性の怨霊が家を祟る話として、池田彌三郎によって「たたりもっけ」の類話として紹介されています。

この話では、富豪の家の主人が召使の女性に罪を被せて殺害し、女性は死の間際に「この家が続く限り、恨みを晴らす」と言い放ちます。その後、主人は女性の霊に取り憑かれて死亡し、息子も同様に祟りによって命を落とします。息子は祟りを避けるために仏神を信じ、貧しい者に施しを与えましたが、家中の床や壁が血まみれになるなどの怪異が起こり、やがて衰弱死しました。息子には子供がいなかったため、その家は断絶したと言われています。

「たたりもっけ」は、人々の恐れや戒めが形を変えて伝承されたものと考えられます。背景には、貧困や差別など、社会的な問題も存在していたのかもしれません。これらの伝承は、現代に生きる私たちに、命の尊さや、他者への思いやり、公正さの大切さを教えてくれているのかもしれません。

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