ダーク・ボガード

ダーク・ボガード(1921年3月28日-1999年5月8日)は、20世紀を代表するイギリスの俳優であり、作家としても知られています。ロンドン生まれの彼は、オランダ人の父親と元女優の母親を持つ、国際的な背景を持っていました。ドイツ人だと誤解されることもありましたが、彼は紛れもなくイギリス人でした。

ボガードの俳優としてのキャリアは、舞台裏の仕事から始まりました。ロンドンのチェルシー美術学校で舞台美術を学んだ後、1939年、ロンドンの劇場で裏方として働いていました。ある時、俳優の急病により代役として舞台に立ち、予期せず俳優としての道を歩むことになります。しかしその年、第二次世界大戦が始まり、彼は従軍。ベルゲン・ベルゼン強制収容所に最初に到達した連合軍将校の一人となり、戦争の残酷な現実を目の当たりにしました。軍務に就きながらも、公式命令で戦争画を描いており、そのうち2点は、大英博物館に所蔵されています。

戦後、1947年に俳優活動を再開し、舞台で高い評価を得て、同年に映画デビューを果たします。以降、イギリスを代表する名優として活躍を続けました。1950年代から1970年代にかけて数々の名作に出演。しかし、スタジオの制約や脚本の問題により、作品ごとのクオリティにばらつきがあったのも事実です。

彼のキャリアにおいて重要な共演者の1人に、日本の女優、谷洋子がいます。1958年の映画『風は知らない』での共演は、国際的な視野の広さを物語っています。1960年の『The Angel Wore Red』では、スペイン内戦下のキャバレーで働く女性と恋に落ちる役を演じ、その演技は高く評価されました。

1963年の『召使』と1965年の『ダーリング』では、英国アカデミー賞を受賞。彼の演技力は、英国のみならず国際的に高く評価されていたことがわかります。ハリウッドからも多くのオファーを受けましたが、アメリカ映画への出演は『わが恋は終りぬ』のみでした。彼は、イギリス、フランス、イタリアなどヨーロッパ映画を中心に活躍し、独自のキャリアを築き上げました。

ルキノ・ヴィスコンティ監督作品への出演は、彼のキャリアのハイライトと言えるでしょう。1969年の『地獄に堕ちた勇者ども』では元ナチスのマックス・アルドーファーを、1971年の『ベニスに死す』ではグスタフ・フォン・アッシェンバッハを演じ、いずれも高い評価を得ました。また、リリアーナ・カヴァーニ監督の『愛の嵐』(1974)では、シャーロット・ランプリングと共演。アラン・レネ監督の『プロビデンス』(1977)では、ジョン・ギールグッド演じる瀕死の作家の息子を演じ、その多面的な演技で観客を魅了しました。さらに、ベルトラン・タヴェルニエ監督の『ダディ・ノスタルジー』(1991)では、ジェーン・バーキンと共演しています。

プライベートでは、長年マネージャーのアンソニー・フォーウッドと同居していましたが、結婚はしませんでした。そのため、ゲイであるという噂が絶えませんでした。しかし、ボガード自身は、フォーウッドとの関係を「友人」と表現し続けました。(フォーウッドは1942年から1948年まで女優のグリニス・ジョンズと結婚していました)。1988年、フォーウッドが亡くなり、1999年、ボガード自身も心臓発作で亡くなりました。

ボガードは、女優のキャプシーヌと交際していた時期もありました。また、作家としても才能を発揮し、数々の自伝や小説を発表しています。代表的な作品として、『Snakes and Ladders』『An Orderly Man』『A Gentle Occupation』『Voices in the Garden』などがあります。これらの作品は、彼の俳優としての経験や内面を反映した、貴重な記録となっています。

ダーク・ボガードは、卓越した演技力と幅広い活動によって、映画史に大きな足跡を残しました。彼の作品は、現在でも多くの人々に愛され続け、その名優としての地位は揺るぎないものとなっています。

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