地獄に堕ちた勇者ども

『地獄に堕ちた勇者ども』は、1969年に公開されたイタリア、西ドイツ、スイス合作映画であり、ルキノ・ヴィスコンティ監督による「ドイツ三部作」の第一作です。この作品は、ナチスが台頭し始めた1930年代初頭のドイツを舞台に、鉄鋼一族であるエッセンベック家の凋落を、デカダンスの美学を織り交ぜて描いています。原題は英語で「The Damned」、副題にはリヒャルト・ワーグナーの楽劇「神々の黄昏」(Götterdämmerung)が各国で付記されています。台詞は英語がオリジナルですが、イタリア語、ドイツ語、フランス語など各国で吹き替え版が制作されています。しかし、脚本はイタリア語で書かれ英訳されたものを基にしているため、純粋な現地吹替版とは異なる側面も持ちます。

物語は、ナチスが政権を掌握した1933年2月のドイツで始まります。プロイセン貴族であり製鉄王であるエッセンベック男爵家では、一族内の勢力争いが激化していました。当主のヨアヒムは、ナチスとの協調路線をとり、反ナチで民主主義者のヘルベルトを会社から排除しようとします。一方、突撃隊員でレームと親しいコンスタンティンは、ヘルベルトを排除し、一族内での影響力を拡大しようと画策していました。さらに、ヨアヒムの誕生日の夜に起きた国会議事堂放火事件をきっかけに、エッセンベック家は混乱に陥ります。ヨアヒムはフリードリヒによって殺害され、ヘルベルトが犯人に仕立て上げられます。

ヨアヒムの死後、エッセンベック家では後継者争いが激化します。コンスタンティンは、遺産を相続したマルティンを傀儡として実権を握ろうとしますが、ゾフィー、フリードリヒ、アッシェンバッハらに出し抜かれます。また、ナチス党内の権力闘争も絡み合い、突撃隊と国防軍の対立も描かれます。その中で、マルティンは退廃的な生活を送ります。女装で歌を歌うなどの奇行を繰り返し、ユダヤ人の幼い少女をレイプし、その少女を自殺に追い込んでしまいます。

ゾフィーとフリードリヒは、マルティンのスキャンダルを隠蔽するためにアッシェンバッハに相談します。アッシェンバッハは、この機会を利用して、コンスタンティン、突撃隊、そしてその指導者であるレームを一掃する計画を立てます。物語は、1934年6月30日の「長いナイフの夜」へと進み、ナチスの粛清の中でエッセンベック家も破滅へと向かいます。

この作品は、シェイクスピアの『マクベス』やトーマス・マンの『ブッデンブローク家の人々』から着想を得ており、マルティンの少女強姦のシーンはドストエフスキーの『悪霊』における「スタヴローギンの告白」から引用されています。また、実在のクルップ製鉄財閥のナチスへの協力と相続人の醜聞もモチーフとなっています。

三島由紀夫はこの作品を絶賛し、「生涯忘れがたい映画作品の一つになろう」と評しました。また、1970年代の英パンクバンド、ダムドの初期アルバムの邦題『地獄に堕ちた野郎ども』は、本作のタイトルをもじったものです。

コメディ・フランセーズでは、本作を「Les Damnés」というタイトルで舞台化しており、2016年にアヴィニョン演劇祭で初演されました。この舞台版では、ギヨーム・ガリエンヌがフリードリヒ・ブルックマン役、ディディエ・サンドルがヨアヒム役、エリック・ジェノヴェーズがアッシェンバッハ役、ドニ・ポダリデスがコンスタンティン役を演じました。

『地獄に堕ちた勇者ども』は、退廃的な雰囲気と複雑な人間関係、そしてナチスによる悲劇的な出来事を背景に、人間の欲望と権力闘争を描いた、映画史に残る傑作と言えるでしょう。

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