ティベリウス・ゲメッルス

ティベリウス・ゲメッルス：運命に翻弄された皇帝の孫

ティベリウス・ユリウス・カエサル・ネロ、通称ティベリウス・ゲメッルス（19年 - 37年/38年）。その名は、ラテン語で「双子」を意味するゲメッルスが示す通り、双子の兄弟と共に、ローマ帝国第2代皇帝ティベリウスの孫として誕生しました。

彼の父はティベリウスの息子、小ドルスス。母は、大ドルススとアントニア・ミノルの娘リウィッラです。姉にリウィア・ユリア、双子の兄弟にゲルマニクス・ゲメッルスがいました。

ゲメッルスが生まれた紀元19年は、ローマ帝国にとって激動の年でした。その10月には、ティベリウスの養子であり、小ドルススの義兄弟にあたるゲルマニクスがシリアで急死。帝国の後継者争いはすでに暗雲を漂わせており、ゲメッルスの誕生は、喪に服する家族にとって複雑な出来事だったことでしょう。

しかし、彼を取り巻く不幸は続きます。23年、父の小ドルススが急死。同年に双子の兄弟も夭折します。小ドルススの死は、権力を握りつつあった親衛隊長官セイヤヌスの暗殺とされ、母リウィッラも関与していたという疑惑が浮上しました。セイヤヌスの失脚後、この疑惑は明らかになり、ゲメッルスの人生に暗い影を落とします。

この時代、後継者候補は、ゲルマニクスの息子であるガイウス・カエサル（後のカリグラ）とゲメッルスに絞られていました。ティベリウスは、血縁であるゲメッルスに愛情を抱いていたとされますが、同時に、リウィッラとセイヤヌスの子ではないかという疑念も抱いていたとも言われています。

37年3月16日、ティベリウスが崩御。遺言状では、カリグラとゲメッルスが対等の相続者とされ、一方の死後は他方が単独相続者となるように定められていました。しかし、ティベリウスの不人気もあり、この遺言は無視されます。年長で人気もあったカリグラが単独皇帝に就任したのです。

こうして、後継者の地位を奪われたゲメッルスでしたが、カリグラは成人式において彼を養子とし、「青年の第一人者（princeps iuventutis）」に任命しました。これは、アウグストゥスがガイウス・カエサルとルキウス・カエサルに行った措置と同じであり、後継者としての地位を示唆するものと解釈できます。

しかし、この栄誉も長くは続きませんでした。カリグラは突如、ゲメッルスを暗殺します。その理由は、ゲメッルスが吐く息から解毒剤の香りがしたため、暗殺を恐れたからだと主張しました。同時期にカリグラは、最初の妻の父マルクス・シラヌスにも自殺を強要しており、この事件は、カリグラの狂気に満ちた治世の始まりを告げるものとなりました。

ティベリウス・ゲメッルスの人生は、権力闘争と陰謀、そして不運に満ちたものでした。皇帝の孫として生まれた彼は、生来の地位と才能にかかわらず、時代の波に翻弄され、悲劇的な最期を遂げたのです。彼の短い生涯は、古代ローマの政治的不安定さと、権力の残酷さを改めて私たちに突きつけます。

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