テッポウエビ

テッポウエビ（鉄砲蝦）

テッポウエビは、十脚目テッポウエビ科に属する甲殻類で、学名は Alpheus brevicristatus です。東アジアの沿岸海域に広く分布し、内湾や浅い海の砂泥底に生息しています。日本では、特に干潟でよく見られ、テッポウエビ科の中では最大級の種として知られています。

形態

成体の体長は50mmから70mm程度ですが、特徴的なのは大きく発達した第一歩脚です。この脚は巨大なハサミとなり、大きな個体ではハサミを含めると全長100mmを超えることもあります。

額角は短く棘状で、両端には小さな複眼が見られます。第一歩脚は左右で大きさと形が異なり、大きい方のハサミは掌部が指部の約3倍の長さで、重厚で強力です。一方、小さい方のハサミは指部が長く、先端に隙間が見られる形状です。

この大きなハサミを使い、「パチン！」という大きな音を出すことができます。この音はキャビテーションという現象を利用したもので、ハサミを高速で閉じる際に発生する水中の気泡が破裂する際に生じます。この音は、敵を威嚇したり、獲物を気絶させるのに役立ちます。また、このキャビテーション時に発生するバブルパルスは、水分子を水電解反応でイオン化させ、再び水分子を合成する際に熱を発生させ、4400℃のプラズマ状態に達するソノルミネッセンスが観測されています。

また、この時発生する気泡は、時速100キロ以上の速さで放出され、約218デシベルという非常に大きな音を発生させます。これは、至近で聞く落雷の音よりも大きく、非常に危険なレベルです。

体色は淡い緑褐色で、背面には淡い白斑が散らばっています。頭胸甲には、斜めの細い帯模様が2〜3本見られます。

テッポウエビに似た種には、オニテッポウエビやテナガテッポウエビなどがいますが、本種は小さい方のハサミが特に長く湾曲している点や、大きい方のハサミの掌部がほぼ四角形である点で区別できます。

生態

テッポウエビは、ロシア極東から日本、中国にかけての東アジア沿岸海域に分布しています。熱帯地域に多いテッポウエビ科の中では、比較的高緯度まで分布しているのが特徴です。

内湾や浅い海の砂泥底に、直径数cm、深さ数十cmの巣穴を掘り、通常はつがいで生活します。巣穴は海底に斜めに開口し、片側に砂泥を積み上げた形をしています。干潟の潮間帯下部や、アマモなどの海草が茂る場所でも見られます。巣穴から出ることは少なく、時折、砂泥を巣穴の口に押し出す行動が見られます。

興味深いのは、テッポウエビの巣穴にハゼ類が同居することがある点です。スジハゼやイトヒキハゼなどのハゼ類は、テッポウエビの巣穴を隠れ家として利用し、敵を察知するとテッポウエビに知らせることで、共生関係を築いていると考えられています。

テッポウエビは雑食性で、藻類や小さな動物を捕食します。主な天敵は、カサゴ、コチ、スズキ、クロダイなどの肉食魚や、コウイカ、テナガダコなどの頭足類です。

テッポウエビは、食用として漁獲されることはほとんどありませんが、産業種の餌として、あるいはハゼ類との共生関係を通じて、生態系の中で重要な役割を担っています。

干潟で巣穴を掘り返すと比較的容易に捕獲できますが、ハサミは非常に強力で、出血するほど挟まれる危険性があるため注意が必要です。また、ハサミや歩脚をつかむと自切しやすい性質もあります。

出典

* 『テッポウエビ』 - コトバンク

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