テレビ中毒

テレビ中毒（てれびちゅうどく）とは、テレビ番組の視聴行動が個人の生活や健康に深刻な悪影響を及ぼしてもなお継続され、自己制御が困難となる状態を指す依存症モデルの一つです。

これは単なる趣味や習慣の範囲を超え、特定の番組がなくても漫然とテレビを視聴し続けたり、視聴時間を減らそうと試みても失敗したりといった特徴が見られます。さらに、テレビを見るのをやめようとすると、精神的あるいは身体的な不快感、いわゆる禁断症状のようなものを経験するとされる人もいます。

このようなテレビ視聴行動が医学的に「真の行動依存症」として確立されるかについては、現在も研究と議論が続けられています。最新の医学的レビューの中には、病的なテレビ視聴行動が行動依存症の基準を満たす可能性を示唆するものもありますが、これを明確に示すためには、この領域におけるさらなる詳細な研究が必要不可欠であるとされています。テレビ中毒モデルは、薬物依存やギャンブル依存といった他の行動依存症と共通点が見出されており、これらもまた自己制御が極めて難しい強迫的な行動として捉えられています。

精神疾患の診断基準としては、広く用いられているDSM（精神疾患の診断・統計マニュアル）において、現行の版（DSM-IVやDSM-5）では「テレビ中毒」という特定の診断名は設けられていません。しかしながら、DSM-5における物質使用障害の診断基準に見られるいくつかの特徴との類似性が指摘されることもあり、行動依存症に関する理解が進むにつれて、その位置づけについても議論が進む可能性があります。

テレビに過剰に没頭する行動は、様々な健康上および行動上の問題を引き起こすと考えられています。長時間座ったままでいることによる運動不足や体重増加、睡眠時間を削ることによる睡眠障害は、身体的な影響として挙げられます。また、現実世界の対人関係や社会活動よりもテレビ視聴を優先することで、反社会的な傾向につながる可能性も示唆されています。特に子どもの場合、テレビの過剰な視聴が注意力の持続や衝動性の制御に影響を与え、注意欠陥・多動性障害（ADHD）のリスクに関連する可能性も指摘されていますが、これらの影響についても更なる研究が必要です。

テレビ中毒は、インターネット依存症やゲーム依存症など、現代社会で問題視される他の行動依存症と文脈を共有しています。これらの概念は、特定のメディアや活動に対する過度な没頭が、個人の生活に悪影響を及ぼすという点で共通しています。「カウチポテト族」や「テレビっ子」といった言葉が示すように、テレビを長時間視聴するライフスタイルは社会的な関心事ともなっており、かつて議論された「一億総白痴化」のようなテレビメディアが社会や個人の知性に与える影響への懸念も、この問題の背景として存在します。

テレビ中毒に関する研究はまだ発展途上にあり、その実態把握、診断基準の確立、効果的な介入方法などについては、今後の医学的・社会学的研究によってより明確な知見が集積されることが期待されます。これは、現代社会におけるメディアとの健康的な関わり方について、広く考えるための重要な概念と言えるでしょう。

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