デジタル教科書

デジタル教科書（デジタルきょうかしょ）

デジタル教科書とは、学校教育において教科書として使用することを意図して作成された電子書籍のことを指します。「電子教科書」と呼ばれることもあります。これは、教室での対面授業にとどまらず、オンラインでの学習コースやオンライン学位プログラム、さらには大規模公開オンライン講座（MOOC）など、現代の多様な教育環境で活用されています。

日本におけるデジタル教科書

初等教育・中等教育における概要

日本国内の初等・中等教育の現場で現時点で広く普及しているのは、主に教師が授業で用いる「指導用デジタル教科書」であり、これは電子黒板などに教科書の内容を提示するために使われます。児童生徒自身が学習に用いる「学習者用デジタル教科書」とは区別されています。

学習者用デジタル教科書を法的に位置づけるための「学校教育法等の一部を改正する法律」が2019年度（令和元年度）に施行されました。この法改正により、紙の教科書を主な教材としつつ、必要に応じてデジタル教科書を併用したり、特定の状況下では紙の教科書に代えて使用したりすることが可能になりました。しかしながら、導入にかかる費用負担が学校や自治体にとって大きなハードルとなり、普及はまだ十分に進んでいないのが現状です。

指導用デジタル教科書

指導用デジタル教科書は、その名の通り、主に教員が授業を進行するために利用する教材です。2005年頃から導入が進み始め、その後の指導要領改訂などを契機に、対応する教科が広がっていきました。普通教室などに設置された大型提示装置（電子黒板など）に映し出し、教科書の内容を拡大したり、動画や音声などの付属資料を活用したりすることで、教員の指導を視覚的・聴覚的に支援する補助教材として用いられています。

学習者用デジタル教科書

学習者用デジタル教科書には、児童生徒の学習活動をより豊かにするための様々な機能が期待されています。例えば、文字や図版の拡大・縮小、重要な部分へのハイライト（マーカー）、学習内容の共有、表示の反転、画面サイズに応じたレイアウトの自動調整（リフロー）、音声による読み上げ、漢字全てにふりがなを振る総ルビ表示、キーワード検索、学習状況の保存、関連する動画やアニメーションの再生、ドリルやワークといった演習機能、参考資料へのアクセスなどです。これらの機能を活用することで、教育活動のさらなる充実や、既存の多様なデジタル教材との連携強化が期待されています。

特に、特別支援教育の現場においては、文字サイズの変更、背景色とテキスト色の調整、行間や文字間隔の変更といった表示設定のカスタマイズ機能が、児童生徒一人ひとりの視覚特性や認知特性に合わせた学習環境を提供するために重要な役割を果たすと期待されています。

前述の法改正により、学校は児童生徒の教育効果を高める必要があると判断した場合、教育課程の一部において、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を用いることができるようになりました。さらに、視覚障害や発達障害、日本語の理解が不十分、色覚特性、化学物質過敏症など、紙の教科書での学習に困難を抱える児童生徒に対しては、教育課程のすべてにおいて、紙の教科書に代えてデジタル教科書を使用することが認められています。

ただし、学習者用デジタル教科書の使用にあたっては、「学校教育法第34条第2項」に基づき、いくつかの条件や配慮事項が定められています。主なものとして以下が挙げられます。

各教科等の授業時間のうち、デジタル教科書のみを使用する時間は全体の半分未満であること。
すべての児童生徒が、必要に応じて紙の教科書も利用できる状態にしておくこと。
児童生徒一人ひとりが、個別の情報端末を用いてデジタル教科書を操作すること。
教室の照明や採光など、児童生徒の健康（特に視力）に配慮した環境整備を行うこと。
情報端末の故障など、機器の不具合によって学習が中断しないよう対策を講じること。
デジタル教科書を用いた授業の効果を常に検証し、指導方法の改善に努めること。
特に、紙の教科書が使用困難な児童生徒のためにデジタル教科書を代用する場合、その障害や事由に応じた個別の配慮を適切に行うこと。
例外的に、デジタル教科書のみを使用する時間が授業時間の半分を超える場合（主に紙の教科書が使用困難な場合）は、児童生徒の学習進度や健康状態（特に心身の負担）の把握に細心の注意を払うこと。

発行される学習者用デジタル教科書の内容は、原則として対応する紙の教科書と同一です。発行は義務ではなく、各教科書発行者の判断に委ねられています。これは有償の教材であり、提供される機能の種類や価格は、各発行者が独自に設定しています。今後、文部科学省が公表する教科書目録には、各教科書のデジタル版の発行状況が記載される予定です。

アメリカ合衆国におけるデジタル教科書

アメリカ合衆国では、2016年の時点で学校で使用される教材全体の約3割がデジタル教材でした。かつてはビデオテープやCD-ROMといった物理的な媒体がデジタル教材として用いられていましたが、2000年代以降はインターネット回線の整備やノートパソコン、電子黒板、DVDといった情報通信技術（ICT）の普及とともに、デジタル教科書の形態もより多様化し、利用が広がっていきました。

関連項目

* 教科書

もう一度検索