ドゥルジ

ゾロアスター教の悪神ドゥルジ：虚偽と不浄の象徴

ゾロアスター教において、ドゥルジ（Druj）は主要な悪神の一柱として知られています。その名はアヴェスター語で「虚偽」を意味し、善の神アシャ・ワヒシュタと対立する存在として描かれています。

ドゥルジの概念の変遷

初期のアヴェスター神学、特にザラスシュトラ自身の言葉とされるガーサーにおいては、ドゥルジは単に「不義」の概念を象徴していました。善なる者はアシャワン（ašavan、『義者』）、悪しき者はドルグワント（drəgvant、『不義者』）と呼ばれ、人間の道徳的立場を表す重要な概念でした。しかし、後期のウィーデーウダートなどの文献では、ドゥルジは「不浄」と結びつけられるようになります。

死の穢れを司るドゥルジ・ナス

特に注目すべきは、ドゥルジが「死の穢れ」を司る存在、ドゥルジ・ナス（Druj Nasu）として現れる点です。「ナス」は「死体」を意味し、ドゥルジ・ナスは複数の女悪魔として描かれます。彼女たちはアルズーラ山峡にある地獄とつながる洞窟から、ハエの姿で現れるとされています。

ドゥルジ・ナスは、腐敗した死体を温床とし、そこから不浄を世界に広げます。さらに、伝染病を媒介し、死を広めるのも彼女たちの使命とされています。このため、ゾロアスター教では、死の穢れが非常に忌み嫌われるようになりました。

死体を守護する鳥と犬

ゾロアスター教の独特な死生観は、ドゥルジ・ナスの存在と密接に結びついています。猛禽類や犬は、ドゥルジ・ナスから死体を守る存在とされ、そのため、ゾロアスター教では鳥葬が推奨されます。これは、死体を放置することでドゥルジ・ナスの温床となるのを防ぎ、不浄が広がるのを食い止めるための信仰に基づいた行為です。

まとめ

ドゥルジは、ゾロアスター教において、単なる「虚偽」や「不義」の象徴から、死の穢れを司る恐ろしい悪神へと変化しました。特にドゥルジ・ナスの概念は、ゾロアスター教の死生観や葬儀習慣に大きな影響を与えています。ドゥルジの存在は、ゾロアスター教の善悪二元論を象徴するだけでなく、人間の道徳的選択や生活習慣にも深く関わる重要な要素なのです。

もう一度検索