ザラスシュトラ

ザラスシュトラとは

ザラスシュトラ（Zaraθuštra、紀元前7世紀頃）は、ゾロアスター教の創始者として知られる古代イランの宗教家です。彼は、アフラ・マズダーを唯一の神とする独自の宗教観を提唱しました。日本語では「ゾロアスター」の名で広く知られていますが、これはギリシャ語での呼称「ゾーロアストレース」に由来します。また、フリードリヒ・ニーチェの著作『ツァラトゥストラはこう語った』の影響で、「ツァラトゥストラ」というドイツ語読みでも知られています。

生涯

ザラスシュトラは、神官の一族であるスピターマ家に生まれました。15歳で宗教的な儀式を済ませ、神官としての教育を受けましたが、20歳の時に既存の宗教に反旗を翻し、旅に出ました。各地で原イラン多神教の神官たちから迫害を受けながらも、彼は自身の教えを広めようと努めました。30代の頃には結婚し、子供をもうけましたが、信徒はなかなか増えませんでした。

40歳になり、ようやく従兄弟が彼の教えを受け入れ、最初の弟子となりました。その後、賢者が100人の弟子を連れて教団に加わったことで、彼の布教活動は好転します。42歳の時に、オラナタ族の王によって保護され、世俗的な権力を得ました。これにより、原イラン多神教の神官団は追放され、ザラスシュトラは宗教的な権威を確立しました。さらに、彼は宰相の娘と結婚し、自身の娘を宰相の弟に嫁がせることで、権力基盤を強固なものにしました。

ザラスシュトラの宗教改革によって、二元論と終末論を軸とした一神教的な「原ゾロアスター教」が誕生しました。この新しい宗教は周辺部族からの反発を招きましたが、戦争を経てその正当性が認められました。ザラスシュトラはその後、礼拝中に暗殺されたとも伝えられています。彼の死後、教団は娘婿によって引き継がれ、教義は一部修正されました。

年代と故郷

ザラスシュトラの生きた年代や場所については、正確な記録が残っていません。研究者によって様々な説が提唱されていますが、紀元前650～600年頃に生きていたとする説が有力です。彼の故郷についても、バクトリア、アゼルバイジャン、ホラズム、スィースターンなど様々な場所が候補に挙げられています。

古代の研究

古代ギリシャ人は、アケメネス朝ペルシアを通じてザラスシュトラの名を知り、彼の記録を残しました。しかし、彼らはザラスシュトラを神話的な人物として捉えており、その記述は歴史的な正確さに欠けていると考えられています。ザラスシュトラが伝説的な存在として扱われていた一方で、彼の教えは後世に大きな影響を与えました。

教義

ザラスシュトラの教えは、『アヴェスター』という聖典に記されていますが、特に「ガーサー」と呼ばれる韻文讃歌が彼の本来の教えに近いと考えられています。しかし、ガーサーに使われている言葉は難解で、現代でも完全に解読されていません。彼はアフラ・マズダーを唯一の崇拝対象とし、宇宙の秩序を維持しようとする存在として説きました。また、アフラ神群を善、ダエーワ神群を悪と見なし、二元論的な世界観を提示しました。彼の教えは、後の宗教や思想に多大な影響を与えました。

ザラスシュトラ伝説

ゾロアスター教の衰退後、ザラスシュトラはイスラム教徒の間で神秘的な存在として崇拝されました。ルネサンス期には、新プラトン主義者によって、プラトン哲学やキリスト教の源流とみなされました。また、偽書の影響もあり、「バビロニア占星術の大家、プラトン主義哲学の祖、キリスト教の先駆者、マギの魔術の実践者」というオカルト的なイメージが定着しました。しかし、18世紀にゾロアスター教の文献がヨーロッパにもたらされたことで、ザラスシュトラの実像に迫ることが可能になりました。それでも、彼の人物像は、ニーチェやナチスなどによって利用され、様々な解釈が加えられてきました。このように、ザラスシュトラは、歴史的な人物であると同時に、伝説的な存在として、現代に至るまで様々な形で語り継がれているのです。

親族

父：ポルシュ・アスパ・スピターマ
母：ドゥグターウ
兄弟：ラトゥシュタル、ラングシュタル、ワースリガー、ハンダニシュ
伯父：アーラーストヤ・スピターマ
従兄：マドヨーイモーンハ・スピターマ
妻：アルワズ、名称不明の妻、フウォーウィー
子供：イサトワーストラ、フルーニ、スリティ、ポルチスター、ナワタトナラ、ウルチフル、ウフシュヤト・エレタ、ウフシュヤト・ネマフ、サオシュヤント

参考文献

青木健『ゾロアスター教』講談社選書メチエ
青木健『ゾロアスター教史』刀水書房
野田恵剛訳『原典完訳 アヴェスタ　ゾロアスター教の聖典』国書刊行会
メアリー・ボイス『ゾロアスター教』山本由美子訳、筑摩書房／講談社学術文庫
フリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラはこう語った』 氷上英廣訳、岩波文庫

関連項目

枢軸時代
魔笛（歌劇）
アーリア人
火炎崇拝
* ジウスドラ

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