ネロリ

ネロリ：高貴な香りの精油

ネロリは、ビターオレンジ（ダイダイ）の花から水蒸気蒸留によって抽出される、大変貴重な精油です。別名ネロリ油、橙花油とも呼ばれ、その芳醇で繊細な香りは、古くから香水、特にオーデコロンの重要な原料として愛されてきました。

ビターオレンジの花1キログラムからわずか約1グラムしか得られないため、非常に希少価値の高い精油と言えるでしょう。主な生産地はイタリア、モロッコ、エジプトであり、これらの地域で丁寧に栽培されたビターオレンジの花が、ネロリの原料として使用されています。水蒸気蒸留の過程では、ネロリ以外にもオレンジフラワー水が副産物として得られます。

まれに、他の柑橘類の花から抽出された精油もネロリと呼ばれる場合がありますが、ビターオレンジの花から抽出された精油であることを明確にするために、フランス語でビターオレンジを意味する「Bigarade」を付けて「ネロリ・ビガラード」と呼ばれることもあります。

ネロリの主成分は(R)-リナロールで、約30～40％を占めています。その他にも、(R)-リモネン、(E)-β-オシメン、(S)-(E)-ネロリドール、(R)-酢酸リナリル、(R)-α-テルピネオールなどの成分を含んでおり、これらの成分が複雑に絡み合うことで、ネロリ特有の奥深い香りを生み出しています。

なお、ビターオレンジの花から溶媒抽出法で得られる香料には「オレンジフラワーアブソリュート」があり、こちらはネロリとは異なるものです。

ネロリの語源：ネーロラの公妃と革手袋

ネロリという名前の由来は、17世紀のイタリアに遡ります。当時、ネーロラのオルシーニ城に住んでいたブラッチャーノ公爵夫人、マリー・アンヌ・ド・ラ・トレモイユ（ユルサン夫人とも呼ばれる）は、その地からネーロラの公妃と呼ばれていました。

この時代、ヨーロッパの貴族の間では革手袋が流行していましたが、革製品特有の嫌な臭いをマスキングするために、精油などが使用されていました。マリー・アンヌ夫人は、その香りづけにダイダイの花の精油、つまりネロリを愛用していたと伝えられています。

そのため、彼女にちなんで、ダイダイの花の精油で香りをつけた手袋が「ネロリの手袋」と呼ばれるようになり、やがて精油そのものもネロリと呼ばれるようになったと言われています。

フランスのグラースにおいても、ネロリの生産が香料として最初に開始されたとされており、これは後にグラースが世界的な香料産業の中心地となる礎を築いたと言えるでしょう。

ネロリと関連する精油

ネロリと関連性の高い精油として、以下のようなものがあります。

プチグレイン: ビターオレンジの枝葉から抽出される精油。ネロリとは異なる香りを持っています。
オレンジ油: オレンジなどの柑橘類の果皮から抽出される精油。ネロリとは異なる、爽やかな香りが特徴です。

ネロリから発見されたテルペンの一種であるネロール、ネロリドールも、ネロリと深い関連があります。これらの成分はネロリの香りに大きく貢献しており、その研究は香りの科学において重要な役割を果たしています。

ネロリの希少性、複雑で奥深い香り、そして歴史的な背景などから、ネロリは現代においても、多くの香水愛好家や調香師に愛され続ける、特別な精油と言えるでしょう。

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