ハリス記念鎌倉幼稚園

鎌倉の由比ガ浜海岸近くに佇むハリス記念鎌倉幼稚園は、この古都において最も長い歴史を有する私立の幼児教育機関です。隣接する日本基督教団鎌倉教会と共に、江ノ島電鉄の車窓や若宮大路からその姿を望むことができ、特徴的な園舎や塔屋は、あたかも鎌倉の景観に溶け込む一つのランドマークのような存在として多くの人々に親しまれています。

この幼稚園の起源は1910年（明治43年）11月3日に遡ります。設立の中心となったのは、日本基督教団鎌倉教会の創立者でもある美山貫一牧師でした。その設立に際して、アメリカ・メソジスト教会の宣教師であるM.C.ハリスとその夫人、フロラ・ベスト・ハリスからの多大な支援と貢献がありました。園の名称に「ハリス記念」と冠されているのは、このハリス夫妻の功績を称えるためです。特にフロラ夫人は幼稚園設立に強く協力することを約束されていましたが、残念ながら園舎完成の前年に世を去られています。また、歴史上の人物との繋がりも特筆されます。かつて園長を務めた鵜飼猛牧師は、後に連合艦隊司令長官となる山本五十六の実兄で、同じく牧師として活動していた山本丈三と親しい間柄でした。

設立以来、ハリス記念鎌倉幼稚園は、その立地する鎌倉という土地柄もあり、戦前から現代に至るまで、数多くの文化人や財界人、旧海軍の高級士官といった、社会的に多様な背景を持つ人々の子供たちを受け入れてきました。しかし、園の教育方針や雰囲気は、こうした背景を持つ園児たちを特別扱いすることなく、一貫してアットホームで温かい、そして質朴であることを重んじています。子供たちは、それぞれの個性を大切にされながら、安心して日々の生活を送り、遊びや学びを通して健やかに成長しています。

現在使用されている園舎は、1923年（大正12年）に関東大震災で惜しくも倒壊してしまった旧園舎に代わり、1925年（大正14年）に再建されたものです。この建物を設計したのは建築家の北尾春道です。彼の設計による園舎は「梅鉢型園舎」という非常に珍しい構造をしており、建物の中心に広々とした遊戯室が設けられ、その周囲を取り囲むように舞台と各教室が配置されています。このユニークな設計は、子供たちの活動の中心となる空間と、学びの空間が一体となり、活発な交流が生まれるよう工夫されています。その歴史的価値や建築的な特徴が評価され、鎌倉市の景観重要建築物（指定第5号）に指定されており、地域の歴史的・文化的景観を保全する上でも重要な役割を担っています。

幼稚園の卒業生やその保護者、そして現旧職員の絆を深め、幼稚園への後援や発展に貢献することを目的とした同窓会組織として「ハリスの会」が存在します。この会は1999年12月に設立され、ハリス記念鎌倉幼稚園での思い出を共有しつつ、現在の子どもたちのためのより良い教育環境を支えるべく活動を行っています。

ハリス記念鎌倉幼稚園からは、後に社会の様々な分野で重要な役割を果たした著名な人物が多数輩出されています。例えば、連合艦隊司令長官山本五十六の長男で、東京大学へと進んだ山本義正氏、元経団連会長を務め、同じく東京大学を卒業した今井敬氏、そして、東京大学名誉教授であり、ユニークな視点で多くの著作を発表している養老孟司氏などが、この幼稚園で幼児期を過ごしました。彼らがこの幼稚園で育んだ経験は、その後の人生における礎の一つとなったことでしょう。

ハリス記念鎌倉幼稚園は、一世紀以上にわたる長い歴史の中で、数多くの子供たちの成長を見守ってきました。その歴史的な建造物と、温かく質朴な教育方針は、これからも鎌倉の街と共にあり続け、次世代を担う子供たちの健やかな育ちを支えていくことでしょう。単なる教育の場としてだけでなく、地域の歴史と文化を体現する存在として、その意義は大きいと言えます。

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