パンサラッサ

パンサラッサ：古代の巨大海洋

パンサラッサとは、古生代後期から中生代前期にかけて、超大陸パンゲアを取り囲んでいた広大な海洋のことです。その名は古代ギリシア語で「全ての海」を意味し、文字通り地球上の全ての海が一つに繋がっていた時代を象徴しています。この巨大な海洋は、地球の歴史において重要な役割を果たしました。

パンサラッサの概要

パンサラッサの面積は、最大で地球の表面積の3分の2、約3億3000万平方キロメートルにも及びました。現在の太平洋を西部と北部に含み、南東部にはテチス海が存在していました。しかし、テチス海が閉鎖し、パンゲアが分裂して大西洋や北極海が形成されるにつれて、パンサラッサは縮小し、現在のインド洋と太平洋へと姿を変えました。そのため、現在パンサラッサがあった場所に位置する海洋は太平洋のみであり、パンサラッサはしばしば「古太平洋」とも呼ばれています。

パンサラッサの誕生

パンサラッサの誕生は、地球の歴史における大きな転換点でした。約8億年前から7億年前には、超大陸ロディニアが分裂し、その結果、北アメリカ大陸の原型であるローレンシア大陸の西側に、広大なパンサラッサが広がりました。この大陸分裂は、地球史上最も重要な出来事の一つと考えられています。ローレンシア大陸西部では、この分裂に先立つ地殻変動により、オーラコゲンと呼ばれる巨大な堆積盆地が形成されました。ロディニア大陸を囲んでいたミロヴィア海は、パンアフリカ海とパンサラッサの拡大によって縮小していきました。

さらに、約6億5000万年前から5億5000万年前には、V字型の超大陸パノティアが形成されました。この「V」の内側がパンサラッサ、外側がパンアフリカ海とわずかに残ったミロヴィア海でした。

パンサラッサの痕跡

パンサラッサを構成していた海盆や海洋地殻の大部分は、太平洋プレートに押されて大陸側へ移動し、海溝の下に沈み込みました。現在の太平洋の北東側や東側にわずかに残るファン・デ・フカ・プレート、ゴルダプレート、ココス・プレート、ナスカ・プレートなどの小さなプレート群は、パンサラッサの一部であったファラロン・プレートの名残と考えられています。

また、パンサラッサの痕跡は、日本列島にも見られます。滋賀県と岐阜県にまたがる伊吹山は、約3億年前の古生代にパンサラッサの海底で活動を始めた海底火山列の一部であったと考えられています。飛騨高山から伊吹山頂上にかけて広く分布する石灰岩層は、約2億5000万年前のペルム紀に火山島上に形成された珊瑚礁が起源であり、プレートの沈み込みによって大陸辺縁で付加体となり、その後の隆起で地上に現れたものです。

さらに、日本海は、パンサラッサの一部であったイザナギ・プレートが大陸プレートへ沈み込み、大規模なスラブとなって、大陸縁を海溝側に引きずる力と、マントルの相変化深度での抵抗によって大陸縁が伸張し、日本列島を大陸から切り離しながら背弧海盆として拡大したとする説もあります。

パンサラッサは、地球の歴史の中で、海洋の形成とプレートテクトニクスのダイナミズムを理解する上で重要な存在です。その痕跡は、現代の地球にも様々な形で残されており、過去の地球環境や地質変動を研究する上で貴重な手がかりとなっています。

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