ヒュミル

北欧神話の海の巨人、ヒュミル

ヒュミルは、北欧神話に登場する海の巨人です。彼は、トールがミズガルズの大蛇ヨルムンガンドを釣り上げる有名なエピソードに深く関わっています。

ヒュミルに関する記述は、主に『スノッリのエッダ』の「ギュルヴィたぶらかし」と『古エッダ』の「ヒュミルの歌」に見られます。また、ブラギ・ボッダソンの「ラグナル頌歌」やウルヴ・ウッガソンの「御館頌歌」にも、異説が伝えられています。興味深いことに、アルトナ石碑などのルーン石碑にも、トールとミズガルズの大蛇の対決を描いた線刻画が存在します。

これらの文献から、ヒュミルは「海の巨人」であるという点は共通していますが、その人物像にはいくつかのバリエーションが存在することがわかります。

『スノッリのエッダ』におけるヒュミル

トールとの出会い

ある日、トールは若者に姿を変え、ヒュミルを釣りに誘います。ヒュミルは、変装したトールが神であるとは気づきませんでした。ヒュミルはトールに餌を持ってくるように言います。

トールと世界蛇

トールは、特別な牡牛の中でも最も大きい牛の頭を切り取り、それを餌にしてヒュミルと共に海へ出かけます。トールが釣り糸を投げると、すぐにミズガルズの大蛇がかかりました。トールは、神力（アースメギン）をふるって大蛇を海上に引き上げ、ハンマーで打ち倒そうとしますが、ヒュミルは恐怖のあまり糸を切ってしまいます。大蛇は海中に逃げ帰り、トールは激怒してヒュミルを海に突き落としました。

『古エッダ』の『ヒュミルの歌』におけるヒュミル

トールとの出会い

トールは、テュールと共にエール酒を醸造するための大釜を手に入れるため、エーリヴァーガル川の東、天の縁にある巨人の館を訪れます。彼らはそこで夕食をとることになりますが、用意されていた3頭の牛のうち2頭を食べ尽くしてしまいます。ヒュミルが「もう食べ物が残っていない」と不満を漏らすと、トールはヒュミルを釣りに誘います。沖へ出るとヒュミルは鯨を釣り上げますが、トールはヨルムンガンドを釣り上げ、ミョルニルで撃ち沈めます。

釣りの後の話

館に戻ると、ヒュミルはトールに試練を与えます。それは、「絶対に割ることができない杯を割ってみろ」というものでした。その杯は、床に落としても壊れず、持ち主の手元に戻ってくるという貴重なものでした。トールは巨人の妻の助けを借りて杯の弱点を聞き出し、見事に割ることに成功します。

館から出るトール

トールは、当初の目的であった大釜を持ち上げ、館を後にします。大勢の巨人が追いかけてきますが、トールはハンマーを使って彼らを殺害します。

このように、ヒュミルは文献によって異なる描かれ方をしていますが、トールと関わり、試練を与える巨人としての役割は共通しています。彼の物語は、北欧神話の英雄譚に彩りを添える要素の一つと言えるでしょう。

参考文献
V.G.ネッケル他編『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年、ISBN 978-4-10-313701-6。
菅原邦城『北欧神話』東京書籍、1984年。

もう一度検索