フラワーデモ

フラワーデモ：性暴力に抗議する花々の運動

フラワーデモは、性暴力に反対する人々が花を持ち寄り、抗議の意思を示す社会運動です。2019年 4月11日に東京駅で初めて開催されて以来、毎月11日に日本各地で実施されています。この運動は、性暴力の被害者に寄り添い、社会的な意識を高めることを目的としています。

運動の始まりと広がり

フラワーデモは、2019年3月に相次いだ性暴力事件の無罪判決を受けて、作家の北原みのり氏やエトセトラブックス社長の松尾亜紀子氏らが呼びかけました。同年4月11日、東京駅には450人以上が集まり、花を手に性暴力への抗議の声を上げました。この日を契機に、運動は全国へと拡大し、翌月には福岡、大阪、東京で同時開催され、正式に「フラワーデモ」と名付けられました。その後、名古屋、仙台、札幌など、全国各地に広がり、2020年2月には40都道府県で開催されるまでに成長しました。また、スペインでも同時開催されるなど、国際的な広がりも見せています。さらに、NHKのEテレ番組『ハートネットTV』で生中継されるなど、社会的な注目も集めています。

この運動は、当初女性への性暴力に対する抗議として始まりましたが、男性の参加も拒んでおらず、性暴力に反対する男性や、男性の性暴力被害者も参加し、自身の体験を語っています。

背景にある性犯罪事件

フラワーデモが始まる直接的なきっかけとなったのは、2019年3月に地裁で相次いで言い渡された4件の性犯罪事件の無罪判決です。これらの判決は、被害者の証言や状況証拠が十分に考慮されていないとして、大きな批判を浴びました。以下に、それぞれの事件の概要を示します。

1. 福岡地裁久留米支部（2019年3月12日）： 2017年2月、福岡市での飲み会で、深酔いして抵抗できない状態の女性に対し性的暴行を加えたとして起訴された事件。地裁は「女性が許容していると被告が誤信した」として無罪判決。福岡高裁で逆転有罪、最高裁で確定。
2. 静岡地裁浜松支部（2019年3月19日）： コンビニ帰りの女性に外国人男性が口腔性交を強要した事件。裁判員裁判で、加害男性から見て「抵抗がなかった」として無罪判決。控訴せず無罪確定。
3. 名古屋地裁岡崎支部（2019年3月26日）： 実父が娘に性的虐待をしていた事件。地裁は「抵抗しようと思えばできた」として無罪判決。名古屋高裁で逆転有罪、最高裁で確定。
4. 静岡地裁（2019年3月28日）： 実父が12歳の娘に性的虐待をしていた事件。地裁は「同室の家族が気づかないのは不自然」として無罪判決。東京高裁で逆転有罪、最高裁で確定。

これらの判決は、性暴力事件における裁判のあり方に大きな疑問を投げかけ、フラワーデモの原動力となりました。特に名古屋地裁の事例では、被害者が恐怖で抵抗できない状態であったにも関わらず、抵抗しなかったことを理由に無罪とする判決は、多くの人々に衝撃を与えました。しかし、後の高裁判決で「抗拒不能状態」が認められ、地裁判決が批判されたことは、司法のあり方を問い直す上で重要な転換点となりました。

運動におけるトラブル

フラワーデモは、社会的な注目を集める一方で、様々なトラブルにも見舞われています。2021年8月の小田急線刺傷事件後には、「女性というだけで命を脅かされる社会はおかしい」として行われたフラワーデモに対し、インターネット上で誹謗中傷や脅迫が相次ぎました。また、2023年3月の国際女性デーには、東京都新宿区歌舞伎町でフラワーデモが実施された際、一般社団法人 Colaboの活動を妨害する目的で集まった男性たちによって妨害され、デモが中止を余儀なくされる事態も発生しました。

草津町フラワーデモに関する問題

群馬県草津町では、女性町議による性被害の虚偽告発事件が発生しました。この事件を巡り、フラワーデモが実施されましたが、「草津町フラワーデモ」と名乗る運動において、草津町を「セカンドレイプの町」と呼称するなど、町全体を貶めるような発言が見られました。この発言を受け、運動に連帯を表明していた一般社団法人Springが謝罪しました。

フラワーデモの意義と今後

フラワーデモは、性暴力という深刻な問題に対し、社会全体で向き合い、解決に向けて行動を起こすための重要な運動です。花を手に集まるという象徴的な行為は、被害者に寄り添う姿勢を示し、社会の意識改革を促しています。今後も、フラワーデモが性暴力のない社会を目指して、継続的に展開されることが期待されます。