フランケンシュタイン・コンプレックス

フランケンシュタイン・コンプレックス：創造と破壊の葛藤

フランケンシュタイン・コンプレックスとは、生命や人工知能といった創造物に対する人間の ambivalent（相反する）な感情を指す概念です。神のごとき創造主の役割を担うことに対する強い魅力と、同時に、その創造物が人類そのものを脅かす存在となるのではないかという恐怖が、複雑に絡み合った心理状態のことをいいます。

この概念の語源は、メアリー・シェリーによる小説『フランケンシュタイン』にあります。小説における科学者ヴィクター・フランケンシュタインは、生命創造という偉業を成し遂げる一方で、その創造物によって悲劇的な結末を迎えます。この物語が、創造と破壊の葛藤という普遍的なテーマを鮮やかに描き出していることから、フランケンシュタイン・コンプレックスという名称が用いられるようになったのです。

SF作家アイザック・アシモフは、この概念をロボット工学の文脈で考察しました。アシモフは、人間がロボットを創造することへの憧憬と、同時にロボットによる人類への脅威という潜在的な恐怖を認識していました。この恐怖こそが、彼の有名な「ロボット工学三原則」を生み出した原動力の一つであると考えられています。ロボット工学三原則は、ロボットが人間に危害を加えないよう、人間に服従し、自己保存を行うようプログラムされたものです。

アシモフのロボットSF作品においては、このフランケンシュタイン・コンプレックスと、労働者の経済的利害が複雑に絡み合っています。多くの作品では、ロボットが人間の労働を奪うという懸念から、地球上でのロボットの使用は原則的に禁止されています。これは、技術革新が社会に及ぼす潜在的な危険性に対する一種の予防措置と言えるでしょう。

フランケンシュタイン・コンプレックスは、単なるSF的な空想にとどまりません。現代社会において、人工知能や遺伝子工学といった高度な技術開発が進むにつれて、このコンプレックスはますます現実的な問題となっています。高度なAIが人間の知性を凌駕する可能性や、遺伝子操作による新たな生命体の出現などは、私たちに倫理的な課題を突きつけています。

このコンプレックスを考える上で、関連する概念として「不気味の谷現象」が挙げられます。これは、人間に酷似したロボットやCGキャラクターが、ある程度リアリティを超えると、逆に不気味さや嫌悪感を抱かせるという現象です。これは、フランケンシュタイン・コンプレックスと同様に、人間の創造物に対する複雑な心理を反映していると言えるでしょう。

フランケンシュタイン・コンプレックスは、単なる心理的な概念にとどまらず、技術開発の倫理的な指針を定める上でも重要な役割を果たしています。私たちは、創造する喜びと、その創造物がもたらす潜在的な危険性を常に意識し、責任ある技術開発を進めていく必要があります。このコンプレックスへの理解を深めることで、より安全で持続可能な未来を築くことができるでしょう。

関連図書

『フランケンシュタイン・コンプレックス』（小野俊太郎、青草書房、2009年）
阿部美春『フランケンシュタイン・コンプレックス』、吉田純子編『身体で読むファンタジー フランケンシュタインからもののけ姫まで』（人文書院、2004年）

関連項目

* 不気味の谷現象

もう一度検索