ブロメライン

ブロメライン

ブロメライン（Bromelain）は、主にパイナップル（pineapple）の果実や茎に存在する天然の酵素です。科学的には、タンパク質を分解する能力を持つ「タンパク質分解酵素」の一種であり、特に「システインプロテアーゼ」というグループに分類されます。この酵素は、その独特な性質から、食品加工や医療分野など、様々な場面で活用されています。

性質

ブロメラインは、無色からわずかに黄色みを帯びた、粘り気のある液体として抽出されます。特徴的なのはその溶解性で、水にはほとんど溶けない一方で、エタノールなどの有機溶媒には比較的容易に溶けるという親油性を示します。

作用と利用

食品への応用

古くから、ブロメラインが含まれる生のパイナップルは、食肉を柔らかくするために利用されてきました。これは、ブロメラインが食肉に含まれるタンパク質の繊維を加水分解し、構造を緩めることによって実現される効果です。ブロメラインと同様に、キウイフルーツに含まれるアクチニジン、イチジクのフィシン、パパイヤのパパイン、マイタケのマイタケプロテアーゼなども、タンパク質を分解するシステインプロテアーゼとして知られており、食品加工に利用されることがあります。

ただし、ブロメラインは熱に非常に弱く、約60℃以上の加熱によってその酵素活性を失ってしまいます。そのため、肉を柔らかくする目的で利用する際は、加熱調理を行う前に、生のパイナップルの果汁やブロメライン製剤に肉を漬け込む必要があります。加熱しながら使用したり、加熱処理済みの缶詰パイナップルを使ったりしても、この軟化効果は期待できません。酢豚などの料理で加熱されたパイナップルが使われるのは、主にその酸味や甘みといった風味付けのためであり、酵素の作用によるものではありません。

医薬品としての応用

医療分野では、ブロメラインはそのタンパク質分解作用を利用して、外用薬として用いられることがあります。「ブロメライン軟膏」として、皮膚の傷口に残る壊死組織や、かさぶた（痂皮）を分解・除去する目的で処方されることがあります。これは、ブロメラインが特にフィブリンというタンパク質を分解する作用（フィブリン溶融作用）を持つことに関係しています。フィブリンは血液凝固に関わるタンパク質で、傷口でかさぶたの形成などに関与します。ブロメラインがフィブリンを分解することで、傷口に残った不要な組織を取り除く手助けをするのです。

作用機序

ブロメラインがタンパク質を分解するメカニズムは、その化学構造に基づいています。この酵素は、特定のシステイン残基に含まれるチオール基（SH基）が触媒活性部位として働く「SH酵素」です。システインとヒスチジンという2つのアミノ酸残基が、酵素の反応中心を形成しています。具体的には、システイン残基の持つチオール基が、分解対象となるタンパク質やペプチドが持つ「ペプチド結合」の特定の炭素原子（カルボニル炭素）に対して「求核攻撃」と呼ばれる化学反応を起こします。これにより、ペプチド結合が水分子を取り込んで切断され（加水分解）、タンパク質やペプチドがより小さな断片へと分解されるのです。

阻害要因

ブロメラインの酵素活性は、特定の物質によって阻害されることが知られています。例えば、ロイペプチンなどのペプチド構造を持つ阻害剤や、NEM（N-エチルマレイミド）、PCMB（p-クロロメルクリ安息香酸）のようにシステイン残基のチオール基を化学的に修飾する試薬は、ブロメラインの活性中心を破壊することで酵素の働きを妨げます。また、水銀化合物のような重金属イオンも、ブロメラインの活性を阻害する要因となります。

安全性

一般的に、ブロメラインは人体に対する毒性が低いと考えられており、比較的安全な物質であるとされています。

まとめ

このように、ブロメラインはパイナップル由来の天然酵素でありながら、食品の品質向上や、傷の治療といった医療用途にまで及ぶ幅広い応用が可能な、ユニークな酵素と言えます。その精密な化学作用によって、様々な分野でその能力が活用されています。

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