プジョー・607

プジョー607は、プジョー社が1999年から2005年まで製造・販売していた、同社のフラッグシップセダンとして位置付けられた乗用車です。同社の既存モデルである605の後継車種として登場し、フランス車らしいエレガントなデザインと快適な乗り心地を両立したモデルとして評価されました。

搭載エンジンは、ガソリンエンジンとして直列4気筒2.2リットルとV型6気筒3.0リットル、ディーゼルエンジンとして2.2リットルが用意されました。パワートレインの選択肢は、時代背景を反映して、当時としては比較的幅広いバリエーションが用意されていたと言えるでしょう。

フランス国内では、その高級感と信頼性から、政府機関や企業の公用車、社用車として多く採用され、街の風景に溶け込む存在感を示していました。

2004年にはマイナーチェンジを実施。フロントマスクのデザイン変更や、フォード社製の2.7リットルV型6気筒ディーゼルエンジンの追加、6速オートマチックトランスミッションのオプション設定などが行われました。しかし、マイナーチェンジ後のモデルは日本市場には導入されませんでした。

日本市場においては、2001年からV型6気筒3.0リットルモデルが輸入販売されました。グレード展開は「コンフォート」と「スポーツ」の2種類が用意され、さらに内装色を選べる受注生産システム「607オートクチュール」も導入されました。これは、顧客の個々の嗜好に合わせた、よりパーソナルな一台を手に入れられるシステムとして、一定の評価を得ていました。

しかしながら、日本市場での販売実績は期待を下回る結果となり、2005年6月には輸入が中止されました。その販売不振の背景には、日本市場におけるフランス車に対する需要の低迷や、競合他社の台頭、そして価格帯などが考えられます。

その後継車種としては、2011年にデビューしたプジョー407と統合された508が挙げられます。508は、607が担っていた高級セダン市場でのポジションを継承し、より広い顧客層を取り込むことを目指して開発されました。

日本国内では、プロ野球の大阪近鉄バファローズの梨田昌孝監督がオーナーであったことが知られています。この縁から、2004年には近鉄バファローズが大阪府内のプジョーディーラーと協賛し、ラリージャパンに「チーム・バファローズ」としてプジョー206XSで参戦する事例もありました。結果はリタイアに終わりましたが、スポーツと自動車メーカーの異色のコラボレーションとして話題を呼びました。

プジョー607は、フランス車の伝統と技術を継承したモデルとして、一部の愛好家から高い評価を受けていましたが、市場のニーズを捉えきれず、短命に終わったモデルと言えるでしょう。その存在は、時代の流れと市場の動向が、いかに自動車メーカーの戦略に影響を与えるかを示す、一つの事例となっています。

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