マインドフルネス

マインドフルネスとは

マインドフルネス（mindfulness）は、「今、この瞬間」の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、ただ観るという心の状態を指します。瞑想などの訓練を通じて、この能力を高めることができるとされています。

概要

マインドフルネスは、仏教の八正道における「正念」という概念に由来します。正念とは、「常に落ち着いた心の行動（状態）」を意味し、自己認識や智慧を発達させ、苦しみからの解放や悟りへと導くと考えられています。

近年の西洋におけるマインドフルネスの流行は、仏教僧侶たちがマインドフルネスを仏教の中心として説き、著作を発表したことがきっかけです。アメリカ人分子生物学者のジョン・カバット・ジンが、仏教色を排し現代的にアレンジしたマインドフルネスストレス低減法（MBSR）を開発したことが、医療分野での応用につながりました。

しかし、西洋では仏教的な前提がないため、マインドフルネスは仏教の文脈から切り離され、「単体の注意のスキル」として受容されました。自己修養、自己成就、自己増進のためのものとして理解され、実践されています。

マインドフルネス瞑想

マインドフルネス瞑想は、現在起こっていることに注意を向ける能力を養うためのものです。臨床的にデザインされた世俗的なマインドフルネスでは、『判断を加えない』と『現在の瞬間を中心に置く』の2つが特に強調されています。

瞑想エクササイズの一つとして、背もたれがまっすぐな椅子に座るか、床に座り、呼吸に注意を向ける方法があります。心が思考に流れていった場合、それに気づき、判断せずに注意を呼吸に戻します。

他にも、身体の感覚に注意を向けるボディスキャン瞑想や、歩く瞑想（ウォーキング・メディテーション）などがあります。レーズンをマインドフルに味わうエクササイズも有名です。

翻訳と定義

マインドフルネスは様々に定義され、様々な目的のために用いられます。仏教における心理学的な伝統と、経験的心理学における知見を用いることが有益です。

仏教用語のsati（サティ）およびsmṛtiが、mindfulnessの語源です。元来、smṛtiは、「思い出す」「記憶している」を意味しました。satiも「思い出す」という意味を持ちます。

歴史

現代的な西洋の実践としてのマインドフルネスは、ヴィパッサナー瞑想とサティの訓練に基づいています。ヴィパッサナー瞑想とサティは、無常、苦、無我という三相へと導く智慧をもたらします。

ジョン・カバット・ジンとMBSR

1979年、ジョン・カバット・ジンは、慢性疾患を治療するためにマサチューセッツ大学でマインドフルネスストレス低減法（MBSR）のプログラムを作りました。MBSRの基本理念は道元禅師の曹洞宗です。

大衆化とマインドフルネス・ムーブメント

日常生活で行う実践としてのマインドフルネスの人気が高まっています。マインドフルネスは人生のスタイルと見なすこともでき、正式な実践環境の枠外で行うことも可能です。このような動向を「マインドフルネス・ムーブメント」と呼びます。

治療プログラム

医療におけるマインドフルネスの実践は、MBSRやマインドフルネス認知療法（MBCT）などの確立された手法に基づいています。

マインドフルネスストレス低減法（MBSR）

MBSRは、ストレス関連障害、慢性疼痛、高血圧、頭痛などの症状を改善するためのプログラムです。非宗教的・世俗的なもので、レーズンエクササイズ、呼吸法、静座瞑想法、ボディスキャン、ヨーガ瞑想法、歩行瞑想法などから構成されます。

マインドフルネス認知療法（MBCT）

MBCTは、MBSRの技法と認知療法の技法を組み合わせたもので、寛解期のうつ病患者を対象に開発されました。不快な気分や感情の生起をコントロールするのではなく、何にどのように注意を向けるか、距離を置いて対処をするかを学びます。

その他の治療法

弁証法的行動療法（DBT）やアクセプタンス&コミットメント・セラピー（ACT）など、マインドフルネスの要素を取り入れた様々な心理療法があります。

森田療法

森田療法は、日本で誕生した心理療法です。「苦を苦として引き受け、むしろそれになり切ったときに、楽が見えてくる」という考え方が、マインドフルネスを連想させると言われています。

科学的研究

マインドフルネスの効果は、科学的にも研究されています。疼痛やうつ病の改善、夫婦関係の促進、睡眠の改善、過食の抑制などに効果があることが示唆されています。

批評と懸念

マインドフルネスは大流行していますが、世俗的な目標達成のツールとみなされることもあります。仏教的な文脈から切り離され、都合よく切り詰められたマインドフルネスの問題点を指摘する声もあります。

仏教サイドからは、現代的なマインドフルネスのように、分離・分断のヴィジョンに基づいてマインドフルネスを行うと、そのヴィジョンが強化され、苦しみの原因である「わたしという意識」が強化されるという懸念も寄せられています。

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