ミイラ男

ミイラ男、あるいはマミーは、古今東西の伝承やフィクション作品に度々登場する、ミイラ化した死体が蘇った怪物です。ゾンビやスケルトンと同様にアンデッドの一種として認識されており、包帯を巻いた姿で描かれることが多い点が特徴的です。日本語では「ミイラ男」と呼ばれますが、性別は必ずしも男性に限定されず、単に「ミイラ」と呼ばれる場合もあります。

ホラー作品、特に1930年代のホラー映画におけるミイラ男のイメージが広く知られていますが、その起源を辿ると意外な事実が見えてきます。初期のミイラを題材とした作品は、現代のホラーとは異なり、ラブ・ロマンス作品であり、ミイラはしばしば女性として描かれていたのです。この傾向は、近年再び復活の兆しを見せています。

ミイラが怪物として認識されるようになった歴史は、さほど古くありません。19世紀、エジプトがヨーロッパ列強に植民地化された頃がその始まりと言えるでしょう。初期の創作物では、ミイラは主人公の恋愛対象として描かれ、美しい女性ミイラと主人公が結ばれる物語さえ存在しました。代表的な作品としては、テオフィル・ゴーティエの『ミイラの足』（1840年）、ブラム・ストーカーの『七つ星の宝石』（1903年）、アーサー・コナン・ドイルの『トートの指輪』（1890年）、ヘンリー・ライダー・ハガードの『洞窟の女王』（1887年）や『スミスとファラオ』（1921年）、グラント・アレンの『ミイラとの大晦日』などが挙げられます。

今日、私たちがミイラ男と聞いて思い浮かべるのは、恐ろしいホラー映画の怪物でしょう。このイメージを決定づけたのは、ユニバーサル映画が1932年に製作した『ミイラ再生』を始めとする1930年代のホラー映画群です。特に、ボリス・カーロフが演じたイムホテップは、ミイラ男の代名詞的存在として広く知られています。この作品以降、ミイラ男はドラキュラ伯爵やフランケンシュタインの怪物と同様に、19世紀ゴシックホラーを代表する怪物の1つとして確固たる地位を築きました。

しかし、20世紀末になると、ミイラは再びロマンス作品の題材として脚光を浴びるようになります。その先駆けとなったのが、アン・ライスの『ザ・マミー』です。清廉なミイラ男と女性考古学者のロマンスを描いたこの作品は、ミイラに対する従来のイメージを覆し、新たな魅力を提示しました。

このように、ミイラ男はホラーとロマンスという相反する二つの側面を併せ持つ、複雑な歴史を持つ怪物なのです。そのイメージは時代や文化によって変化し、私たちの想像力を刺激し続けています。初期のミイラ像から、ホラー映画で確立された恐ろしい怪物像、そして現代のロマンス作品における新たな解釈まで、ミイラ男は多様な物語を紡ぎ出し、今後も創作の源泉として生き続けることでしょう。

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