ミシュリーヌ

ミシュリーヌ：ゴムタイヤで走る、画期的な鉄道車両

ミシュラン社が開発した「ミシュリーヌ」は、通常の鉄道レール上をゴムタイヤで走行する特異な鉄道車両です。案内軌条式鉄道とは異なり、一般的な鉄道のレールを使用する点が大きな特徴です。1930年代、ミシュラン社は数十種類のミシュリーヌを製造し、一部は営業運転にも投入されました。その多くは気動車でしたが、ディーゼル機関車と客車の組み合わせや、電車形式のものも存在しました。現在では、コルシカ島など一部地域では、ミシュラン社製のゴムタイヤ車両ではない気動車も「ミシュリーヌ」と呼ばれているケースもあります。

ミシュリーヌの技術と特徴

ミシュリーヌの開発者であるアンドレ・ミシュランは、自動車と同様に空気入りのゴムタイヤを使用することで、鉄道車両の騒音と振動を低減し、乗り心地を向上させようとしました。しかし、ゴムタイヤは金属車輪と異なり、踏面勾配による自然な操舵機能を備えていません。そのため、ミシュリーヌはリムの内側に大きな金属製のフランジを取り付けることで、カーブでの案内を実現しています。

さらに、ゴムタイヤは金属車輪に比べて耐荷重が低いため、大型のタイヤやダブルタイヤは採用できませんでした。そこで、多くのミシュリーヌは一つの台車に複数の車軸を設置することで、車輪の数を増やし、その問題を克服しています。また、航空機製造技術の応用によりジュラルミンを使用した軽量化も図られました。

ミシュリーヌの歴史：誕生から衰退、そして現在へ

ミシュリーヌの開発は、アンドレ・ミシュランが1929年に夜行列車の騒音に悩まされたことがきっかけでした。同年、ルノー製自動車を改造した試作車が誕生し、1931年には試作5号車がパリとドーヴィル間を2時間で往復走行するという成果を収めました。

1932年には、複数の鉄道会社に11型が納入され、営業運転が開始されました。この11型は、3軸のセミトレーラー状の機関車と2軸台車の客車から構成され、最高速度は80km/hに達し、試運転では125km/hを記録しました。その後も、より大型で高速なミシュリーヌが製造され、標準軌だけでなく狭軌のものも生産され、フランスの植民地であるインドシナやマダガスカルなどで使用されました。一部の車両はアメリカのバッド社で製造され、同社のステンレス鋼スポット溶接技術が用いられました。

ミシュランのライバルであるダンロップ社も、ゴムタイヤ鉄道車両を開発しましたが、ミシュリーヌとは異なり、案内用の金属車輪を別に備えていました。ミシュリーヌは1950年代に営業運転をほぼ終了しましたが、マダガスカルのフィアナランツォア-東海岸鉄道では、現在も2両が観光用に運行されています。フランスのミュールーズにあるシテ・デュ・トラン（旧フランス鉄道博物館）には、ミシュリーヌ22型が保存されています。

ミシュリーヌの技術は、路面と案内軌条を別に持つ案内軌条式鉄道の発展にも貢献しました。パリのメトロのゴムタイヤ化にもミシュラン社が協力し、1956年に11号線で実用化されました。

まとめ

ミシュリーヌは、革新的な技術と設計によって、鉄道車両の乗り心地向上に貢献した、画期的な存在でした。その歴史は、技術開発の歴史だけでなく、時代の変化や交通手段の進化を映し出す鏡でもあります。現在でも、一部地域でその姿を見ることができ、鉄道史における重要な位置を占め続けていると言えるでしょう。ゴムタイヤによる鉄道車両という、独自のアイデアで、多くの人の記憶に残る車両となりました。

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