メルクリウス

メルクリウス (Mercurius)

メルクリウスは、ローマ神話の中で非常に重要な位置を占める神であり、商人や旅人の守護神として知られています。英語ではマーキュリー（Mercury）と表記され、ローマのデイ・コンセンテス（Dei Consentes）と呼ばれる神々の一員です。

概要

メルクリウスは、ギリシャ神話の神ヘルメースの特性を色濃く受け継いでおり、彼は伝令使としてだけでなく、雄弁家や盗賊、商人、職人の庇護者としても信仰されていました。彼の名前は、商品や財貨を意味する「merces」に由来しており、商業の神としての側面を強調しています。神話によると、ニュンペーのラールンダとの間に子供をもうけたことで、ラールたち（ラレース）を産んだともされています。

メルクリウスの神殿は、紀元前496年にアウェンティヌス丘の上に建設されたとされていますが、これはローマの聖地ポメリウムの外に位置しているため、元来ローマに存在していた神ではなく、外部から伝来した神であると見なされています。このことは、彼の信仰が特定の地域に根ざしたものではなく、広範囲にわたる異文化との交流の産物であることを示唆しています。

ローマ暦と周辺文化

ローマ暦では、水曜日がメルクリウスの日「Diēs Mercuriī」として特に捉えられています。このことから、曜日の名前がメルクリウスに由来していることが明らかです。古代の著述家タキトゥスは、ゲルマン人が特に崇拝していた神をメルクリウスと記しており、これは後にゲルマン神話の主神であるウォーダンに関連付けられています。このため、英語の「Wednesday」は古英語から「ウォーデンの日」に翻訳されたことに起因しています。

ヘルメスとメルクリウスの関連性

メルクリウスは時にエジプトの神ヘルメスとも重ねられ、ヘルメス・トリスメギストスという神話的人物としても知られています。彼はヘルメス主義の象徴であり、中世ヨーロッパやルネサンス期には錬金術の考案者としての見解が強まり、知識や技芸の起源として崇められました。

心理学者カール・グスタフ・ユングは、メルクリウスを無意識の象徴として解釈し、彼の働きは創造の始まりと終わりを体現していると述べています。ユングによると、メルクリウスは両性具有の存在として、兄妹の関係を経た後に再び一つに結びつくことで新しい光、すなわち「賢者の石」を象徴する存在になります。

彼は金属でありながらも液体としての性質も持ち、物質性と精神性、冷たさと火、毒と薬の相反する性質を持つことから、「諸対立を一つに結びつける象徴」とされます。この変容性と多様性こそが、錬金術における基盤的な表象であり、メルクリウスという存在は私たちの無意識の深部を反映したものとも考えられています。

結論

メルクリウスの多面的な性質は、神話と象徴を通じて多くの文化に影響を与えてきました。彼の存在は商業や旅行だけでなく、錬金術や心理学にも重要な役割を果たしています。メルクリウスという神は、ただの商人の守護神ではなく、人間の無意識や精神的な変化を反映する存在であると言えるでしょう。彼が持つ象徴性は、多くの象徴や表現によって今なお解釈され続けています。

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