ルリタテハ

ルリタテハについて

ルリタテハ（瑠璃立羽、学名: Kaniska canace）は、タテハチョウ科に所属するチョウの一種であり、ルリタテハ属の唯一の現存種として知られています。その学名は、古代インドのクシャーナ朝の君主カニシカ王に由来し、種名のcanaceはギリシャ神話に登場するカナケーという人物に由来しています。

特徴

成虫の前翅長はおおよそ25から45mmであり、翅の表面は濃い黒褐色を基調とし、そこに美しい瑠璃色の帯模様が施されています。この鮮やかな帯模様は前翅の先端部で途切れ、その際には白い斑点が見受けられます。雌と雄でおおむね同じ色彩ですが、雌の方が翅と青色の帯がかけて幅広い傾向にあります。そのため、成虫の識別は比較的容易であり、翅の裏面は灰褐色で細かい模様があり、樹皮や落ち葉にうまく擬態しています。また、翅の外縁には小さな凹凸があり、他のタテハチョウ亜科との区別にも役立ちます。

生態

ルリタテハは、平地に広がる森林やその周辺に生息し、都市部の公園や緑地でも観察されることがあります。成虫は暖かい地域では年に2〜3回（6〜7月、8月、10月）、寒冷地においては年に1回（8〜9月）のサイクルで発生します。また、成虫は冬を耐えしのぎ、春の早い段階で他のチョウとも共に飛び始める姿が観察されます。

成虫は非常に敏捷に飛翔し、翅を閉じている時は保護色が働くため目立ちにくいですが、翅を広げるとその鮮やかな色合いが際立ちます。特にオスは短期間ですが縄張りを形成し、見晴らしの良い場所に止まって他のオスに対して激しく威嚇することがあります。花にはあまり訪れず、主に雑木林の樹液や動物の糞に引き寄せられ、これらから水分を摂取することが多いです。人間の生活圏でも、ヤナギや他の樹木の近くで樹液を求めて飛び回る姿が頻繁に見られます。

幼虫は紫黒色をしており、無毒の黄白色の棘のような突起を68本持っています。これらの幼虫は主にサルトリイバラやホトトギス、ユリなどの植物の葉裏で生活し、全ての幼虫期を通してそのような環境で成長します。

分布

ルリタテハの分布は広範囲で、東アジアや南アジアに亘り、中国やロシア沿海地方からインドにかけて見られ、日本や朝鮮半島、台湾、フィリピン、さらにスマトラ島やジャワ島、カリマンタン島でも記録されています。日本国内では北海道南部から南西諸島まで観察され、トカラ列島以南の亜種は琉球亜種 K. c. ishima、種子島や屋久島以北は日本本土亜種 K. c. nojaponicumに分類されています。

特に、日本本土亜種の名の中の「nojaponicum」は、翅に描かれる水色の帯模様が文字通り「ノ」の字の形に似ていることに由来します。近年では、台湾から飛来した台湾亜種 K. c. drilon も与那国島で確認されています。このように、ルリタテハはその美しさと共に、多様な生息地で重要な生態系の一端を担っています。

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