レントラー

レントラー（独：Ländler）は、ドイツ圏南部にルーツを持つ、活気あふれる3/4拍子の民族舞踊です。かつては、現在のドイツ南部、オーストリア、スイス東部を含む広範な地域で、18世紀末頃まで広く親しまれていました。

この舞踊の起源は、13世紀頃に今日のチロル州とバイエルン州の農民たちの間で踊られていた「ヴェッラー」（Weller）という踊りに遡ると考えられています。ヴェッラーから発展したレントラーは、二人一組で踊られることが基本であり、その特徴的な動きとして、ステップを踏むだけでなく、大きく飛んだり跳ねたりといったダイナミックな身のこなしが組み込まれていました。

レントラーの伴奏音楽は、純粋な器楽によって演奏されることもあれば、ヨーデルのような地方色豊かな歌声が加わることもあります。その素朴ながらも力強いリズムと旋律は、踊り手の活発な動きを一層引き立てました。

歴史的な変化として、19世紀に入り、ヨーロッパの都市部で舞踏会が社交の場として広く普及するにつれて、レントラーにも変化が訪れます。テンポはより速まり、踊りには以前にも増して優雅さが求められるようになりました。この時期には、男性が靴底に釘が打ち付けられた「Hobnail」と呼ばれる長靴を履いて踊るスタイルも現れています。

レントラーは、その後のヨーロッパにおける舞踏音楽、特にワルツの形成に重要な影響を与えたと見なされています。直接的な前身とされる場合もあれば、ワルツやウィンナ・ワルツとは近しい関係にある「親戚」のような存在として位置づけられることもあります。レントラーの3/4拍子のリズムや、パートナーと組んで回転する動きは、ワルツの基本的な要素として受け継がれていきました。

この舞踊は、クラシック音楽の世界においても、多くの著名な作曲家によって作品に取り入れられています。

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンやフランツ・シューベルトは、レントラーを基にした作品を多数残しています。
アントン・ブルックナーやグスタフ・マーラーといった後期ロマン派の作曲家たちは、自身の交響曲の舞曲楽章において、慣習的なスケルツォの代わりにレントラーを採用し、この民族舞踊に新たな芸術的表現を与えました。
アルバン・ベルクがヴァイオリン協奏曲で引用したケルンテン地方の民謡もレントラーの一種であり、彼のオペラ『ヴォツェック』の第2幕でもレントラーが印象的に使用されています。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトやフランツ・ヨーゼフ・ハイドンが作曲した「ドイツ舞曲」も、レントラーと多くの共通点を持つ舞曲です。
* ベンジャミン・ブリテンのオペラ『ピーター・グライムズ』においても、舞踏会のシーンでレントラーが演奏され、作品の雰囲気を特徴づけています。

クラシック音楽の分野に留まらず、レントラーは他の芸術作品にも登場しています。特に有名なのは、映画『サウンド・オブ・ミュージック』の中で、主人公のマリアとトラップ大佐が共にレントラーを踊るシーンでしょう。この映画を通じて、レントラーの魅力が広く世界に知られることとなりました。

このように、レントラーはかつての南ドイツ圏における活発な民族舞踊としてだけでなく、ワルツへの発展に寄与し、さらにはクラシック音楽や映画といった様々なジャンルでインスピレーション源となり、文化的な足跡を残しています。

（関連項目：ワルツ、ウィンナ・ワルツ）

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