ヴルーム

ヴルーム (VROOOM)

『ヴルーム』は、1994年に世に問われたキング・クリムゾンのミニ・アルバムであり、この伝説的なバンドにとって新たな時代を告げる重要な作品です。

解説

本作で特筆すべきは、初めてお披露目された「ダブル・トリオ」と呼ばれる6人編成でしょう。バンドの要であるロバート・フリップ（ギター）を中心に、長年活動を共にしてきたエイドリアン・ブリュー（ギター、ボーカル）、トニー・レヴィン（ベース、チャップマン・スティック）、ビル・ブルーフォード（ドラムス、パーカッション）という『ディシプリン』期以降の強固なラインナップに、新鋭のトレイ・ガン（チャップマン・スティック）と、セッションドラマーとしても名高いパット・マステロット（ドラムス、パーカッション）が新たに加わりました。2本のギター、2本のベース（スティック含む）、2組のドラムスという編成は、それまでのキング・クリムゾンにはなかった、より複雑で重層的なサウンドの可能性を提示しました。

本作は、翌1995年にリリースされるフル・アルバム『スラック』へと繋がる、いわば移行期の成果物と位置づけられています。ロバート・フリップ自身は、本作について後に「あくまでリハーサルセッションの記録に過ぎない」と述懐していますが、その言葉とは裏腹に、新しい編成の持つエネルギーと実験精神が瑞々しく捉えられています。

オリジナル盤には、以下の6曲が収められています。

VROOOM
Sex Sleep Eat Drink Dream
Cage
Thrak
When I Say Stop,Continue
One Time

このうち、「VROOOM」「Sex Sleep Eat Drink Dream」「Thrak」「One Time」の4曲は、後に『スラック』にリミックスされたバージョンで再収録されました。一方、「Cage」と「When I Say Stop,Continue」の2曲は、このミニ・アルバムでしか聴くことのできない貴重な楽曲です。特に「Cage」は、エイドリアン・ブリューが1998年の自身のソロ・アルバム『Belew Prints: The Acoustic Adrian Belew Volume Two』でアコースティック・バージョンとしてセルフカバーしており、その楽曲の持つポテンシャルの高さを物語っています。

また、2015年には『スラック』のボックスセットの一部として、本作を拡張した「Maximum VROOOM」が登場しました。オリジナル収録曲に加え、以下の7曲のマテリアルが追加収録され、当時のセッションのより深い部分に触れることができます。

Funky Jam
Fashionable
Krim 3
Bass Groove
Calliope
No Questions Asked
Monster Jam

この拡張盤は、ファンにとって「ダブル・トリオ」期の創造プロセスをより深く理解するための重要な資料となっています。

プレイヤー

この革新的なサウンドを生み出したのは、以下の6人のプレイヤーたちです。

ロバート・フリップ – ギター
エイドリアン・ブリュー – ギター, ボーカル
トニー・レヴィン – ベース・ギター, チャップマン・スティック
トレイ・ガン – チャップマン・スティック
ビル・ブルーフォード – ドラムス, パーカッション
* パット・マステロット – ドラムス, パーカッション

総括

『ヴルーム』は単なるプレビュー盤ではなく、キング・クリムゾンの歴史における新たな章の始まりを刻む、挑戦的でエネルギーに満ちた作品と言えるでしょう。後の『スラック』で完成されるサウンドの萌芽が、このミニ・アルバムには確かに息づいています。

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