チャップマン・スティック

チャップマン・スティック：革新的なタッピング楽器

チャップマン・スティックは、1970年代初頭にエメット・チャップマンによって発明された電気楽器です。彼は両手をフレットに並行に構え、弦を叩いて音を出す「フリー・ハンズ」タッピング奏法のために、この新しい楽器を設計しました。1974年に最初のモデルが出荷され、以来、多くのミュージシャンに愛用されています。

概要

スティックは、一見すると幅広のエレキギターの指板のように見えます。通常、8弦、10弦、12弦のモデルがあり、ギターの指板よりも長く幅広いです。ギターのように片手でフレットを押さえ、もう片方の手で弦を弾くのではなく、両手でフレット上の弦を叩いて音を出すのが特徴です。このタッピング奏法により、通常の弦楽器よりもはるかに多くの音を同時に奏でることができ、鍵盤楽器のような演奏も可能です。

多くのスティック・プレイヤーは、低音、コード、メロディラインを同時に演奏することを習得しており、多様な音楽表現を可能にしています。演奏時は、ベルトフックとショルダーストラップで楽器を保持し、約30〜40度の角度で構えることで、両手が自然に指板に対応できます。

構造

楽器本体は、他の弦楽器と同様に木製で、強度を保つために非常に硬い広葉樹（ウリン、アイアンウッドなど）が使用されます。1980年代には、エボニーや特殊な木材を使用したモデルも存在しました。1990年代初頭には、射出成形で作られたポリカーボネート樹脂製のモデルも登場しています。近年では、パドゥク、インディアン・ローズウッド、タララ、メイプル、マホガニーなどの広葉樹や、竹などのオーガニック素材、さらにはグラファイトやエポキシ[[樹脂]]などのハイテク素材も使用されています。

ギターやベースと比較すると、スティックの指板はラウンドがほとんどなく、非常に平坦です。ロングスケール、やや高いフレット、低い弦のテンション、そして高感度のピックアップという特殊なセットアップは、タッピング奏法のために進化しました。

チューニング

スティックのチューニングは多様化していますが、標準的なチューニングでは、5本のベース弦（グランド・スティック・モデルは6本）が5弦に向かって高音となり、指板の中央に低音弦が配置されます。同様に、5本のメロディ弦（グランドスティックは6本）が4弦に向かって高音となり、指板の中央に低音弦が配置されます。チューニングは演奏スタイルによって変更でき、リード楽器として演奏する場合はメロディとベースを明確に分け、高音域に設定します。和音的な演奏をする場合は、ベース側とメロディ側をより密接に関連付け、低音域に設定します（マッチド・レシプロカル・チューニング）。

スティックの弦とチューニングの構成は、完全に調律されたコードを演奏するのに適しています。ギターと比較して、スティックのチューニングは1つのフレット位置で4〜5オクターブの音程を選択できるため、表現の幅が広がります。また、この標準チューニングは、幾何学的で指で演奏しやすいパターンを持ち、移調を容易にし、楽器の習得を容易にします。ベース/メロディパートでは、微分音チューニングも可能です。

エレクトロニクス

標準出力は2チャンネルで、TRS 1/4インチコネクターでベースとメロディの出力が分かれています。ピックアップには、Stickup、ACTV-2、PASV-4の3種類があります。

Stickup: 初期のスティックから搭載されているパッシブピックアップで、六角レンチで各弦のバランスを調整できます。
ACTV-2: EMG社製のシングルピックアップを使用し、各パートにボリュームコントロールとハイカットトーンコントロールが用意されています。モノラルモードも搭載。
PASV-4: Villex社製ピックアップが各パートに2基搭載されています。各パートにボリュームコントロール、ミッドレンジコントロール、4点のピックアップセレクターがあり、モノラルモードも搭載。

オプションで、メロディパートとベースパートにそれぞれRoland GK-3ピックアップを搭載し、Roland GR-20やAxon AX-100などのギターシンセサイザーやMIDI楽器を演奏することも可能です。スティックは、標準的なギターやベース用アンプに接続できますが、パッシブピックアップの高いインピーダンスのため、プリアンプが必要になる場合があります。

主な使用者

有名なスティック奏者としては、キング・クリムゾンのベーシスト、トニー・レヴィンが挙げられます。彼のスティックは、単なるベースの代用ではなく、「第三のギター」として機能し、1980年代以降のキング・クリムゾンのサウンドに貢献しました。その他、トレイ・ガンもキング・クリムゾンおよびその周辺で活躍しています。

カジャグーグーのベーシスト、ニック・ベッグスもスティックを使用しており、パール兄弟のバカボン鈴木、Base Ball Bearの関根史織（両者ともベーシスト）も使用しています。アルフォンソ・ジョンソン、ベルナール・パガノッティ、ヤニク・トップ、キャリー・メルボルンなどもスティックを使用しています。

モデル

現在、チャップマン・スティックには7つのモデルがあります。弦の構成は様々ですが、現在の生産モデルは、物理的な制約の範囲内であれば、どのようなチューニングにも対応できます。

The Stick: 10弦（5メロディ弦 + 5ベース弦）
Grand Stick: 12弦（6メロディ弦 + 6ベース弦）
Stick Bass (SB8): 8弦（4メロディ弦 + 4ベース弦）またはベースギターに似たチューニング
NS Stick: 8弦、ピック弾き、アルペジオ、スラップ、タッピング用
Stick XG: グラファイトと連続炭素繊維製
Alto Stick: 10弦（5メロディ弦 + 5伴奏弦）、ギターに似た短めのスケール
Stick Guitar: 12弦（6弦2組）、ギターに似た短めのスケール

スティック、グランド・スティック、スティック・ベースは36インチスケールですが、過去には34インチスケールのモデルも存在しました。スティック・エンタープライゼズ社は、カスタムや限定モデルも製造しています。

The Acoustick: ボブ・カルバートソンのために作られたアコースティック・バージョン
Ten String Grand: 10弦グランド・スティック
Stick XBL: BassLab社製の空洞複合材料を使用したプロトタイプ

スティックとは別に、ウォー・ギターやコヤブボードもタッピング奏法のギターとして知られています。

外部リンク

Stick Enterprises - Home of the Chapman Stick
* Stick Enterprises, Inc. at the Wayback Machine

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