一髻

一髻（ひとつもとどり）

一髻は、平安時代以来、男性貴族の間で結われ、今日に至るまで宮廷の儀式などで見られる伝統的な髪型です。別名として「冠下髻（かんむりしたのもとどり）」とも称されます。

結い方

この髪型は、肩甲骨あたりまで十分に伸ばした髪を、後頭部で一つに束ねることから始まります。その根元を「元結（もとゆい）」と呼ばれる紐で二度巻きつけ、さらにその紐を「千鳥掛け」と呼ばれる結び方で編み上げていきます。この千鳥掛けは、正面から見ると菱形に見えるのが特徴です。

鎌倉時代の識者の見解によれば、身分の高い者は紫色の元結を、低い者は白色の元結を用いるのが通例でした。また、元結を編み上げる回数も決められており、慶事など通常時はおよそ十三回と奇数回に、一方、凶事の際にはおよそ十二回と偶数回に結ぶという習わしがあったと伝えられています。

結い上げた髻（もとどり）は、装着する冠の「巾子（こじ）」と呼ばれる筒状の部分に押し込み、最後に「簪（しん）」を用いて冠全体と共に固定されました。

人に見せられなかった髪型

この一髻という髪型が、当時の文献や絵画資料に実際に描かれている例は極めて限られています。これは、男性貴族にとって人前で冠を外すという行為が、あたかも下着を露わにするのに等しいほど大変な恥辱と見なされていたためです。基本的に、公の場では常に冠や烏帽子を着用しており、一髻はそれらの下に隠されるべきものでした。

このことから生まれた興味深い逸話がいくつかあります。

例えば、「梨壷の五人」の一人に数えられる平安時代の歌人、清原元輔は、不注意から公衆の面前で烏帽子を落とし、あろうことか禿げ上がった頭部をさらけ出してしまいました。しかし彼は慌てることなく、古代中国などの故事を引き合いに出し、かつて冠を落とした有名な人物の例を挙げて堂々と弁明したため、その場にいた人々をかえって大いに笑わせたという逸話が残っています。

また、長徳元年（995年）には、宮中において対立していた藤原行成と藤原実方が口論となり、怒りに駆られた実方が行成の冠を床に投げ捨てるという前代未聞の事件が発生しました。この時、行成は一切動じることなく冷静に対応し、かえって実方自身を恥じ入らせたと伝えられています。一部始終を見ていた一条天皇は、その場で行成の落ち着いた振る舞いを称賛したと記録されています。これらのエピソードは、いかに冠が重要視され、それを失うこと、あるいは冠の下の髪を晒すことが特別な出来事であったかを示しています。

もっとも、常に冠を被っていたわけではなく、自身の邸宅内や、気の置けない同性の友人との宴席など、ごく私的でリラックスした場においては、冠を外して一髻のままで過ごすこともありました。ただし、病人が床に臥せっている場合など、冠や烏帽子を被ることができない状況では髪を露出せざるを得ませんが、その多くは代わりに鉢巻などを巻いて髪を隠すのが一般的でした。

結わない状態の「童」

一髻は、室町時代以降に武士の間で主流となった月代（さかやき）を剃る髷（まげ）とは異なり、基本的に頭髪全体を伸ばしたまま結う髪型です。そのため、髻を結わず、髪を下ろしてその裾を服の下に収めると、時に女性の垂髪（すいはつ）と見分けがつかないような状態になることもありました。

このように、髻を結わないで髪を下ろした状態は、まるで子供の髪型のような印象を与えることから、年齢に関わらず「童（わらわ）」と呼ばれました。平安時代には、特にごく身分の低い人々の間でこのような姿が見られました。

そして、中でも特に「大童（おおわらわ）」という言葉は、武士のような屈強な男性が髪を結わずに下ろした姿を指しました。こうした男性が髪を振り乱して一心不乱に物事に取り組む様子から、現代においても、行事の準備などで大いに忙しく、なりふり構わず取り組む様を比喩的に「おおわらわになる」と表現する慣用句が生まれました。

一髻は、単なる髪型というだけでなく、冠という権威の象徴と一体となった、当時の男性貴族の生活様式や社会的なタブー、さらには言葉の由来にまで繋がる、歴史的に興味深い髪型と言えるでしょう。

関連項目

• - 日本の冠
• - 烏帽子
• - 日本髪
• - 平安時代

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