三輪素麺

三輪素麺とは

三輪素麺（みわそうめん）は、奈良県桜井市を中心とした三輪地方で生産されている手延べ素麺で、この地域を代表する特産品です。三輪地方は素麺発祥の地とも言われ、その歴史と伝統は深く根付いています。

歴史

三輪素麺の起源は、奈良時代に遣唐使によって伝えられた小麦栽培と製粉技術にあるとされています。平安時代中期の『延喜式』には、唐から伝わった唐菓子「索餅（さくべい）」が原型であるという説があります。索餅は、小麦粉や米粉に塩を加えて縄状にした乾麺で、素麺よりも太いものだったと推測されています。奈良時代には、索餅は米の端境期をしのぐための夏の保存食として重宝され、長屋王邸宅跡から出土した木簡が最古の記録です。また、『正倉院文書』にも、平城京での索餅の取引記録が残っています。

伝説によれば、紀元前91年、大和三輪で大物主命の五世の孫である大田田根子命が、大神神社の祭司に任命されました。その十五世の孫である大神朝臣狭井久佐の次男、穀主が飢饉と疫病に苦しむ民を救うため、神の啓示を受けて三輪で小麦を作り、素麺を初めて作ったと伝えられています。この縁から、大神神社の祭神は素麺作りの守護神とされており、毎年2月5日には、その年の生産者と卸業者の初取引の参考価格を占う「卜定祭」が執り行われます。

製法と特徴

三輪素麺は、小麦粉を原料とし、極寒期に手延べ法によって作られます。その特徴は、しっかりとしたコシと煮崩れしにくい独特の歯ごたえ、そしてなめらかな舌触りです。製造から1年以上寝かせたものは「古物（ひねもの）」、2年以上寝かせたものは「大古（おおひね）」と呼ばれ、珍重されています。

伝統的な三輪素麺のランクは、細さによって上から「神杉」「緒環」「瑞垣」「誉」の4つに区分されていました。しかし近年では、各メーカーが独自に細い素麺を生産するようになり、この区分は曖昧になっています。一般的には、「瑞垣（鳥居の金帯）」と「誉（鳥居の黒帯）」という大まかな区分けがされています。

また、細さを極限まで追求したこだわりの麺もあり、三輪山本の「白髪・白龍」や、池利の「蒼龍の糸」などが知られています。ただし、これらの主力商品の一部は、長崎県南島原市の自社工場で製造されており、必ずしも「三輪素麺」とは表示されていません。

産地表示問題

1983年4月から産地表示が規制されていましたが、2002年7月には、大手販売業者3社が長崎県産の素麺を「三輪素麺」として販売していたことが発覚しました。これは、長崎県産の素麺が三輪産よりも安価であったため、安定供給のために常習的に行われていました。当時の奈良県内の生産量は年間約15万箱と推定されていましたが、実際に「三輪素麺」として流通していたのは60～80万箱にも及んでいました。この問題を受け、14業者が協同組合を自主脱退・除名される事態となりましたが、2002年8月には奈良県が産地表示問題は解消したと発表しました。

問題への対処

この問題に対し、三輪に本社を置く各企業が作る素麺と、生産者団体である「奈良県三輪素麺工業協同組合」が取り仕切る素麺の2つに分かれることとなりました。工業協同組合は、三輪で作られたものだけを「三輪素麺」と呼び、品質を保証するために鳥居印の帯紙とラベルを貼付しています。組合は各企業に対し、組合員が生産した素麺を仕入れるよう依頼しています。各メーカーは自社で作る三輪素麺と並行して、組合を通した素麺も販売しています。また、池利は奈良県内生産を確立し、大型工場を建設しました。他社でも、奈良県内で生産していない場合は「三輪素麺」とは表示せず、自社ブランドで販売しています。例えば、「三輪そうめん山本」はその後「三輪山本」に社名変更されています。

三輪素麺のブランド力向上

2015年、三輪素麺工業協同組合と三輪素麺販売協議会は、「三輪素麺」のブランド強化に取り組み始めました。統一ブランド商品の開発や共同配送などを行うとともに、農林水産省の地理的表示保護制度（GI）への登録を目指しました。その結果、2016年3月29日には、三輪素麺が奈良県全域を産地として地理的表示保護制度に登録され、知的財産権として表示が保護されるようになりました。

そうめん条例

2017年には、桜井市で「そうめん条例」が制定されました。この条例は、三輪素麺の普及と伝統文化への理解促進を目的とし、市が三輪素麺の普及に必要な措置を講じることを義務付けています。また、市と事業者の取り組みに市民の協力を求めるものです。



このように、三輪素麺は長い歴史と伝統を持つ特産品であり、その品質を守るための様々な取り組みが行われています。その独特の風味と食感をぜひご堪能ください。

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