下河原

京都東山区下河原：栄華を極めた花街の痕跡

京都市東山区に位置する下河原は、古くから独特の歴史と文化を育んできた地域です。その地名は、高台寺山から流れる菊渓川と音羽山から流れる轟川が合流し、砂礫地を形成したことに由来しています。この地理的条件が、下河原の運命を大きく左右することになります。

豊臣秀吉と高台寺の影

江戸時代初期、豊臣秀吉の正室である高台院がこの地に高台寺を建立しました。この出来事が、下河原の歴史に大きな転換点をもたらします。高台院は、多くの芸人をこの地に住まわせるようになり、それが下河原の花街のはじまりとされています。

祇園など他の花街にいた「茶屋女」とは異なり、下河原の芸妓は「山根子芸者」と呼ばれ、高い芸の腕前で知られていました。遊女のような側面はほとんどなく、その洗練された芸は多くの人々を魅了したと伝えられています。

許された花街としての発展

下河原は、公許の花街である嶋原の管轄下に置かれ、独自の「渡世（免許）」を得て栄華を極めました。祇園新地（後の祇園甲部・祇園東）よりも早く、京舞井上流を街の流儀として採用したという点も特筆すべきでしょう。

明治時代には、日本初の博覧会である附博覧において、祇園の『都をどり』と共に『東山をどり』が上演されました。『東山をどり』は、古くから下河原に伝わる「まくづ踊」という伊勢音頭に似た総踊りを基に創り上げられたとされています。

衰退と合併、そして現在

しかし、明治時代以降、下河原は衰退の一途を辿ります。1886年（明治19年）、祇園甲部に合併され、花街としての歴史に幕を閉じました。現在では、花街としての面影はほとんど残っていませんが、お茶屋の鑑札プレートを掲げた民家が数軒現存し、かつての花街の面影を伝えています。また、周辺には旅館や料亭が多く、これも花街の名残と言えるでしょう。

下河原通は、八坂神社の南楼門前から八坂通までを繋ぐ通りとして、下河原の街の中心を貫いています。この通りを歩けば、かつての賑わいを偲ぶことができるかもしれません。

下河原を知るための参考文献

下河原の歴史を知る上で、以下の文献が参考になります。

田中緑紅 『亡くなった京の廓上』京を語る会発行、1958年
明田鉄男 『日本花街史』雄山閣、1990年

これらの文献から、下河原がかつていかに華やかで独特な文化を持つ花街であったのかを知ることができます。現在、その面影は薄れつつありますが、下河原の歴史は、京都の文化史において重要な位置を占めていると言えるでしょう。

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