九字護身法

九字護身法について

九字護身法（くじごしんぼう）は、日本の修験道において重要な意味を持つ作法であり、「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」という九つの呪文と九種類の印を用いて、除災や戦勝を祈るための儀式です。この行為はしばしば「九字を切る」や「九字切り」と表現されることもあります。

九字護身法の由来

九字護身法は、道教の六甲秘呪がもとになっています。「抱朴子」の中に登場する呪文は、晋の葛洪が唱えたとされています。この呪文は、日本では独特な解釈が加えられ、独股印を結びながら口で「臨」と唱えつづけ、続いてさまざまな印を結ぶという一連の流れが確立されました。

具体的には、以下の九種類の印が結ばれます：
1. 大金剛輪印
2. 外獅子印
3. 内獅子印
4. 外縛印
5. 内縛印
6. 智拳印
7. 日輪印
8. 宝瓶印（隠形印とも呼ばれます）

これに続いて「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」と唱えながら、刀印と呼ばれる印を結んで空中に四縦五横の線を描きます。この手法は、道教では「縦横法」と称されます。修験道では、これらの印にはそれぞれ異なる本地仏が配当されています。たとえば、毘沙門天や不動明王などがその例です。しかしながら、印と本地仏の配当には明確な根拠がないようで、印の形と結びつく理由は不明です。さらに、外獅子印や内獅子印は、日本独自の印であり、インドの密教経典にはみられません。

武士と忍者の九字護身法

中世においては、九字護身法は武士たちによっても用いられました。出陣の際に護身や戦勝の祈りとして使われることが多く、また忍者の呪術としても利用されるようになりました。日蓮系の信者たちにもこの技法は受け継がれ、法華経の形式を取り入れた九字の作法が継承されました。

特に興味深いのは、「摩利支天の法」と呼ばれる修法が、戦場に臨む武士たちの行いとして存在していた点です。摩利支天は武士の守り本尊として広く信仰されていました。この法は、右手と左手の人差し指と中指を立てる形を取り、右手を刀、左手を鞘に見立てて空中を切るという工程が特徴です。

現代における九字護身法

明治以降は、大東流合気柔術の創始者である武田惣角が九字護身法を修行し、さまざまな技法と関連付けながら発展させていきました。特に九字切りや気合術、不動金縛り法、足止め術は同じ流派に属する技術として知られています。2023年には、会津の易師中川万之丞の遺品が公開され、九字に関連した印や呪法の記載がなされていることが明らかになりました。

ただし、九字護身法を行うには専門的な修行が必要とされ、素人が無闇に使用することは禁じられています。秘儀的な性格が色濃く残るこの技法は、日本の traditionalなエッセンスを色濃く反映しています。

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