二階堂奥歯

二階堂奥歯：読書家編集者の短い生涯と、その軌跡を残す『八本脚の蝶』

1977年生まれの二階堂奥歯は、日本の編集者として知られています。早稲田大学第一文学部哲学科を卒業後、国書刊行会や毎日新聞社出版局で編集者としてのキャリアを積みました。しかし、2003年、26歳の若さで自らの命を絶ちました。

彼女の存在を知るきっかけとなったのは、死後出版された『八本脚の蝶』です。これは、生前に彼女が自身のウェブサイトで綴っていた日記をまとめた作品で、2006年にポプラ社から刊行されました。早稲田大学で同期だった斉藤尚美氏の手によって世に出たこの日記は、2016年には本屋大賞の発掘部門で「超発掘本！」に選出されるなど、大きな反響を呼びました。

二階堂は、並外れた読書家として知られています。学生時代から、東雅夫編集の季刊雑誌『幻想文学』に書評を寄稿するなど、活発な執筆活動を行っていました。東雅夫氏は、彼女を「筋金入りの本の虫」と評し、その読書量の多さと、SFやファンタジーといった専門的なジャンルにとどまらない、幅広い読書範囲を高く評価していました。怪獣ホラーやSFポルノグラフィーといった、よりニッチなジャンルにも造詣が深かったことが伺えます。

編集者としての活動においても、二階堂は多くの作家と交流を持っていました。山尾悠子、津原泰水、中野翠といった著名な作家たちとの親交があったことは、彼女の仕事の幅広さと、人脈の広さを示しています。

さらに、彼女は葛原妙子を好み、自身も短歌を詠んでおり、「かばん」という歌誌にも所属していました。彼女の読書日記『八本脚の蝶』には、穂村弘や佐藤弓生といった歌人も寄稿しており、穂村弘氏の書評集『これから泳ぎにいきませんか』のタイトルは、二階堂との打ち合わせ中の発言から取られたものであると明かされています。このエピソードからも、彼女が作家や歌人たちから信頼され、深く交流していたことが分かります。

『八本脚の蝶』は、単なる読書日記ではありません。彼女の鋭い視点、深い洞察力、そして何よりも、本への並々ならぬ愛情が感じられる、珠玉の文章集です。そこに綴られた言葉の一つ一つから、彼女の知性と感受性の豊かさ、そして生に対する強い意志が伝わってきます。26年の短い生涯でしたが、二階堂奥歯は、多くの作品や人々に影響を与え、その存在感を示しました。彼女の残した言葉は、今もなお多くの人々の心に響き続けています。

二階堂奥歯の死は、多くの読者に衝撃と悲しみを与えました。しかし、彼女の残した『八本脚の蝶』は、私たちに読書の喜び、そして人生の尊さを改めて教えてくれる、貴重な一冊です。彼女の短い生涯と、その軌跡をたどりながら、私たちは彼女の生き様、そして残された言葉に思いを馳せることができるでしょう。

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