五大菩薩

五大菩薩とは、仏教における菩薩、すなわち悟りを求めて修行する存在の中でも、特に重要な五尊を組み合わせたものです。これらは密教において重視される金剛界曼荼羅に登場する数多くの菩薩の中から、主要なものを集めたものとされています。

特筆すべきは、京都市に位置する東寺（教王護国寺）に安置されている五大菩薩像です。しかし、東寺の像以外に顕著な作例は確認されていません。五仏（五智如来）や五大明王については、日本国内に多数の造像例が見られるのに対し、金剛波羅蜜、金剛薩埵、金剛宝菩薩、金剛法菩薩、金剛業菩薩の組み合わせを五大菩薩として祀る例は極めて少ないのが現状です。

五大菩薩の典拠は明確にはなっていません。『金剛頂経』や『仁王経』といった密教の根本経典をもとに、空海が独自に発案したという説や、中国・唐時代の密教美術にその源流を求める説があります。

東寺講堂の五大菩薩

東寺の講堂には、空海の構想によって造立された21体の尊像からなる立体曼荼羅があります。講堂に安置された仏像群は、如来グループ、明王グループ、菩薩グループに分かれており、堂の中央には大日如来を中心とする金剛界五仏、向かって左には不動明王を中心とする五大明王、そして向かって右には五大菩薩像が安置されています。東寺講堂の五大菩薩は、金剛波羅蜜、金剛薩埵、金剛宝菩薩、金剛法菩薩、金剛業菩薩の五体で構成されています。

金剛波羅蜜は、金剛界曼荼羅において大日如来の東西南北を囲む「四波羅蜜」の筆頭とされる菩薩です。金剛薩埵は、金剛界曼荼羅において東方の阿閦如来の周囲に配される四親近菩薩の筆頭であり、同様に金剛宝菩薩、金剛法菩薩、金剛業菩薩はそれぞれ、南方・宝生如来、西方・阿弥陀如来、北方・不空成就如来の四親近菩薩の筆頭として位置づけられています。このように、五大菩薩はそれぞれが五仏と対応関係にあることがわかります。

密教には三輪身説という教えがあり、一つの仏が自性輪身、正法輪身、教令輪身という3つの姿を現すとされます。自性輪身は真理や悟りの境地そのものであり、五仏に相当します。正法輪身は真理を説く者であり、五大菩薩に相当します。そして教令輪身は、教えに従わない者を力ずくで導く者であり、五大明王に相当するとされています。東寺講堂の諸仏は、この密教の思想を立体的な彫像で表現した立体曼荼羅なのです。

陸奥国分寺の五大菩薩

貞観15年（873年）には、陸奥国が蝦夷の脅威による動揺を鎮めるため、五大菩薩像を造って国分寺（陸奥国分寺）に安置することを願い出て、許可されています。しかし、この像は現存せず、『日本三代実録』の記事にその記録が残るのみとなっています。

もう一度検索