人種主義

人種主義とは

人種主義（じんしゅしゅぎ）とは、異なる人種間に根本的な優劣が存在し、優れた人種が劣った人種を支配することが自然であるという思想やイデオロギーを指します。この概念は身体的特性に基づく優劣の理解に着目しており、民族や国民の枠を超えたものです。

定義

人種主義の定義について、ルース・ベネディクトは「エスニック・グループには劣っているものと優れているものがあるというドグマである」と述べました。さらに、カリン・プリースターは、人種主義が近代以降の社会において前近代的な構造やヒエラルキーを持続するために生物学的な基盤を用いて正当化される過程であると指摘しています。特に1492年のスペインからのユダヤ人追放を人種主義の幕開けとする見解も存在します。

人種主義の歴史

人間集団間の差異に関する考え自体は古代から存在します。古代ギリシャでは、自らをヘレネスと呼び、他民族をバルバロイと見なしていましたが、この考えは時代を超えて続いています。人種という概念が普遍的かどうかは議論がありますが、近代に発足したという見解が多く支持されています。

貴族主義と博物学

人種主義の思想が理論化されるのは17世紀フランスが起源だとされます。この時代、貴族主義を正当化するために、フランス貴族はフランク人の子孫であり、一般フランス人と生物学的に異なるという論理が展開されました。また、デイヴィッド・ヒュームは他の人種を文化的に劣位と宣言しました。

博物学の流行も影響を与え、カール・フォン・リンネは人類を異なる種として体系的に分類しました。ヨハン・フリードリヒ・ブルーメンバッハは人種をコーカシアンやモンゴリアンなどの主要な5つに分類し、リンネの考えを引き継ぎました。

人種主義の理論化

19世紀に入ると、アルテュール・ド・ゴビノーがアーリア民族の優越性を提唱し、人種不平等についての著作を残しました。この考えは、当時の社会構造の問題に結びついており、ヒューストン・ステュアート・チェンバレンはゴビノーの見解を引き継ぎつつ、優生学の観点から異なるアプローチを展開しました。

この時代、白人優越主義的見解は植民地主義や帝国主義の正当化に繋がり、「文明化の使命」や「白人の責務」といった掲げられる思想と相まって、植民地での支配や文化の押しつけを正当化しました。

人種主義の退潮

1945年、ナチスドイツの崩壊は人種主義に大きな影響を与えました。ホロコーストの実態は、その理論的基盤を脅かし、ユネスコからは「人種に関する声明」が発表され、科学的根拠の否定が行われました。

世界における人種主義の事例

アメリカにおいては先住民とのギャップを強調し、収奪を正当化するために人種主義が広がりました。また、南北戦争後には黒人に対する差別的見解が強まりました。人種主義的政策はアメリカ政府の移民政策にも反映され、日本からの移民が禁止されるなど、排除が行われました。

ドイツでは「民族至上主義的運動」が興隆し、ユダヤ人に対する反セム主義が進展しました。第一次世界大戦後、黒人兵士の存在が「黒い汚辱」として非難され、この考えはナチスの人種政策へと繋がります。ホロコースト等も含め、ナチスの人種主義は極端に表れました。

結論

人種主義の歴史は古く、現代に至るまで多くの議論や変遷を経ています。しかし、1945年以降その思想は少しずつ衰退の傾向を見せています。その一方で現代においても根強く残る偏見や差別は、今後も克服しなければならない課題です。

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