例外状態

例外状態についての考察

例外状態（Ausnahmezustand）は国家における特異な非常事態を示す概念です。ドイツの政治理論家カール・シュミットがこの用語に関連づけて自身の政治思想を語ったことで広まりました。「例外」というドイツ語の「Ausnahme」と、「状態」を意味する「Zustand」から成り立っており、原語のニュアンスが重視されています。近年では、イタリアの哲学者ジョルゴ・アガンベンが、この概念をアメリカの帝国主義と絡めて考察し、著書『ホモ・サケル』において議論を展開しています。

カール・シュミットの「例外状態」

シュミットは、議会制民主主義を厳しく批判した思想家です。彼は、議会制における政党は社会的・経済的利権を代表する団体に過ぎず、国家に対しての責任を果たしていないと指摘しました。政党は自身の利益を追求するために多数の法案を提案し続け、その結果、政治の発展は倫理や理念を欠いた技術の上に成り立っていると論じています。

シュミットによれば、社会の秩序を形成する真正な政治が望ましい状態であり、その秩序の中で法が作られることが理想とされます。しかし、議会制民主主義においては、さまざまな利権団体間で妥協を繰り返しながら法が定められるため、その実態はシュミットが求めるものとはかけ離れている状況を呈しています。

彼の著書『政治神学』では、「主権者とは、例外状態に関して決断を下す者である」と述べられています。シュミットにとって、例外状態は真正な政治が復権する可能性の一つであり、この考えは特に重要です。

ドイツのヴァイマル憲法第48条は、不測の事態において大統領が強力な権限を行使できることを規定しており、国家的危機の際に緊急令が頻繁に発動されました。特に世界恐慌後は、ヒンデンブルク大統領の下で緊急令が濫発され、権威主義的な体制が形成されていきました。シュミットはこの体制を支持していたことも注目すべき点です。

ジョルジョ・アガンベンの「例外状態」

シュミットの考え方に続いて、アガンベンは例外状態をより深く考察し、特に現代の政治状況におけるその意義に焦点を当てています。アガンベンによると、例外状態は単なる危機管理の手段ではなく、個人の自由を制限するための道具として利用されることもあるとしています。彼は「ホモ・サケル」の議論を通じて、例外状態がどのように権力が個人の権利を侵害するかを示しています。

アガンベンは、例外状態が日常の政治にどのように浸透しているのかを分析し、現代社会における自由の概念に疑問を投げかけています。彼の議論は、例外状態の理解が単なる理論にとどまらず、実際に世界に影響を及ぼしていることを強調しています。

まとめ

例外状態という概念は、シュミットやアガンベンの思想を通じて様々な観点から考察されてきました。国家の危機における権力の行使や、個人の自由に対する影響を理解する上で、この概念は非常に重要です。これにより我々は、現代の政治情勢を深く理解し、権力と自由、秩序と混乱という複雑な関係を見つめ直すことが求められています。

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