千葉県営鉄道

千葉県営鉄道：地方開発と時代の波に翻弄された軌跡

千葉県営鉄道は、千葉県がかつて運営していた鉄道、そして建設を予定していたものの実現しなかった鉄道を指します。その歴史は、地方開発への強い意志と、時代の変化による計画の挫折という、対照的な側面を併せ持っています。

戦前：地方開発を支えた県営鉄道

千葉県営鉄道の建設を推進したのは、第11代千葉県知事であった有吉忠一氏でした。当時の千葉県は、道路事情が悪く、鉄道敷設も遅れていたため、地域開発を促進するために鉄道網の整備が急務と判断されました。

県内には道路修繕に適した砂利が産出されず、高価な県外からの砂利購入を余儀なくされていた状況も、建設の背景にあります。そのため、建設費の安い軌道・軽便鉄道の建設に重点が置かれました。建設資金は国からの借款と県債によって調達され、陸軍鉄道連隊の協力を得ることで費用を抑える工夫も凝らされました。この有吉氏は、後に宮崎県知事となり、宮崎県営鉄道の建設にも携わっています。

県営鉄道によって建設・運営された路線は、後に他の鉄道事業者へと引き継がれていきました。

現在も運行されている路線（譲渡先）

久留里線：1923年（大正12年）9月1日、国有化。1987年（昭和62年）からJR東日本が運営。
野田線：1923年（大正12年）8月1日、北総鉄道（後に総武鉄道を経て東武鉄道へ）に譲渡。

廃止された路線

庁南茂原間人車軌道：建設のみで、運営は地元組合が行っていました。
多古線：成田鉄道多古線となり、1927年（昭和2年）4月1日譲渡、1946年（昭和21年）廃止。
八街線：成田鉄道八街線となり、1927年（昭和2年）4月1日譲渡、1940年（昭和15年）廃止。
大原大多喜人車軌道：夷隅軌道となり、1927年（昭和27年）廃止。

戦後：幻となった北千葉線

太平洋戦争後の戦後計画として、千葉ニュータウン開発に伴い「北千葉線」の計画が持ち上がりました。しかし、この計画は、時代の変化や事業規模の縮小によって、何度も変更や凍結を繰り返すことになります。

当初は、都営地下鉄新宿線本八幡駅から延伸し、新鎌ヶ谷、印旛松虫（現在の印西市付近）に至る路線として計画され、免許も交付されました。さらに、印旛松虫から成田ニュータウン、成田駅方面への延伸計画も存在しました。

計画では、小室駅～千葉ニュータウン中央駅間を先行して単線で建設し、その後、全線開業、改軌という複数段階での完成を目指していました。しかし、千葉ニュータウン事業計画の縮小により、1978年（昭和53年）に事業は凍結。免許は宅地開発公団（後の都市再生機構）へ譲渡され、この区間は後に北総鉄道北総線として建設されました。

残りの区間の計画は、運輸政策審議会答申から削除されたり、第三セクターによる事業化が検討されたりしましたが、沿線人口増加の見込みがないこと、巨額な事業費、北総鉄道の経営状況などから、計画は頓挫し、2013年（平成25年）に計画そのものが廃止となりました。

現在では、京成バスが本八幡駅と北総鉄道北総線方面を結ぶ路線を運行しており、県営鉄道計画の痕跡は、バス路線に受け継がれていると言えるかもしれません。

千葉県営鉄道の歴史は、地方開発への熱意と、時代の変化による計画の挫折という、複雑な歴史を物語っています。計画が実現しなかった北千葉線は、未成線の代表例として、日本の鉄道史に刻まれた一つのエピソードと言えるでしょう。

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