原裕

原裕（はら ゆたか）

俳人

原裕は、1930年10月11日に茨城県で生を受け、1999年10月2日にその生涯を閉じた日本の俳人です。本名は昇、旧姓は堀込でした。俳人原石鼎に師事し、石鼎の没後にはその夫人の原コウ子の養子となり、後に俳誌『鹿火屋』の主宰を引き継ぎ、現代俳句の一翼を担いました。

経歴

現在の筑西市にあたる、当時の真壁郡大田村で農家の長男として生を受けた原裕は、1943年に茨城県立下館商業学校に入学し、学びを始めました。1947年には下館第一高等学校工業科に編入。この頃、県内の高校生による投句誌『はいく』に初めて俳句が掲載され、句作の道へと進みます。同じ年、書店で出会った俳誌『鹿火屋』への入会を決意し、投句を開始。その後、『朝霧』『かびれ』『ひろば』といった他の俳句結社にも参加し、句境を広げました。

1949年、商工省に入省。仕事の傍ら明治大学二部商学科で学び、同時に『鹿火屋』東京句会への参加や編集部員としての活動を行いました。多忙な日々の中で俳句への情熱を燃やし続け、1951年には鹿火屋賞を受賞するという栄誉に輝きます。

同年、師である原石鼎の通夜において、その夫人の原コウ子より養子となることを強く請われ、熟慮の末、承諾に至りました。（これに先立つ半年ほど前から打診があり、郷里での親族会議を経て決断を保留していたという背景があります。）翌1952年、正式に原家へ入籍し、俳号を「裕」と改めました。これを機に、長年務めた職を辞し、大学も中退し、俳句に専念する決意を固めます。

一度学業を離れたものの、1955年には埼玉大学文理学部文学科に入学し、再び学びの機会を得ました。この時期に二度目の鹿火屋賞を受賞。1956年には、落合水尾や小室善弘らと共に学生俳句誌『埼大俳句』を創刊するなど、精力的に活動しました。

1960年、国語国文学を専攻し埼玉大学を卒業。株式会社山海堂に入社し、土木関連の雑誌編集に携わりました。同年、現代俳句協会に入会。1961年には、自身も所属していた鹿火屋新人会の女性と結婚しています。

1967年には現代俳句協会を退会し、俳人協会に入会。その後、俳壇における指導者としての役割を担うようになり、1970年には俳人協会の常任理事に就任します。

1973年、山海堂を退社。読売新聞社が主催する『教養と趣味の講座』で俳句講師を務めることになりました。そして、1974年8月、『鹿火屋』創刊六百号記念大会の席上、原コウ子より正式に『鹿火屋』の主宰を引き継ぎ、結社の中心として活動することになります。

その後も俳壇での要職を歴任し、1978年には俳人協会理事に就任。1985年には日本文学風土学会常任委員、産経新聞俳壇選者、俳句研究賞選考委員を務め、1987年には日本文学風土学会理事、日本文芸家協会会員となりました。1989年には俳人協会常務理事に就任するなど、俳句界の発展に尽力しました。

作風と代表句

俳句の道を拓いた師、原石鼎に加え、原裕は石田波郷や加藤楸邨にも私淑していたと言われています。その句風は、写生に根ざしながらも想像力を駆使する着実さと重厚さを持つことで知られます。単なる写実に留まらず、人間存在の深奥にある、普遍的な懐かしさを捉えることを俳句創作の信条としていました。

代表的な句には、

鳥雲に入るおほかたは常の景
はつゆめの半ばを過ぎて出雲かな

などがあります。これらの句からも、日常的な風景の中に潜む、移ろいや内面への視線を感じ取ることができます。

句集・著作

原裕は多くの句集や著作を世に送り出しました。

句集
『葦牙』（昭和俳人選書第二巻、春日書房）
『青垣』（永田書房）
『新治』（角川書店）
『出雲』（現代俳句叢書第十七巻、角川書店）
『正午』（角川書店）
『原裕　俳句文庫』（春陽堂）

著作
『原石鼎ノオト』（鹿火屋会）
『実作の周辺・I』（鹿火屋会）
『実作の周辺・II』（鹿火屋会）
『俳句教室』（東京美術）
『季の思想』（永田書房）
『教科書に出てくる俳句の解釈』（東京美術）
『季のこころ』（四季出版）
『四季の小文』（ふらんす堂）
* 『原石鼎』（本阿弥書店）

これらの作品は、彼の俳句観や創作への取り組みを知る上で貴重な資料となっています。

晩年

長年にわたり俳句の創作と指導に尽力した原裕は、1999年10月2日、68歳で逝去しました。その功績は、現代俳句史において重要な足跡として記憶されています。

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